Pick Up
1071.世界の食料支出パターン傾向

1071.世界の食料支出パターン傾向
気候変動の影響の中で増加する世界人口を養う必要があることを考えると、より健康的で持続可能な食生活への進歩は、最も重要な地球規模の課題の1つです。歴史的に、高所得国は食の支出パターンを規定し、農業や食料生産慣行に世界的に大きな影響を与えてきました。とりわけ、過去数十年にわたるエネルギー集約的な動物性食品中心の食生活への移行は、食料生産の方向だけでなく、特定の商品作物にプライオリティを設定することで国際貿易動向も決定づけてきました。こうしたトレンドは、土地利用・水消費・温室効果ガス排出への影響を通じ、多大な環境インパクトを及ぼします。さらに、消費のシフトは、肥満や非感染症疾患の上昇も伴ってきました。
以上の背景から、環境・健康上のインパクトへの懸念から、低所得国が経済発展を遂げるにつれ、低所得国の消費者は高所得国の消費者の「西欧的な」食生活を取り入れていくかどうか、高い関心があります。グローバル食料システムの展開に伴う農業・貿易および公衆衛生に関する政策策定上、低所得国と高所得国の消費者による食料需要が収束していくかどうかを見極めることは、極めて重要です。
Nature Food誌で公表された論文は、過去数十年にわたる90カ国以上の総食料支出、12分類の食品カテゴリー、超加工食品・飲料に焦点を当て、消費者による家計の食料支出への配分パターンが世界的に収束しているかどうかの傾向について調べました。
論文は、予想に反して、低所得国の食料支出パターンは高所得国の食料支出パターンに必ずしも普遍的に収束していくわけではないことを明らかにしました。低所得国の消費者は植物性食品に強い嗜好を示す一方、高所得国および上位中所得国の消費者は予算を動物性食品に配分する傾向がありました。さらに、所得増加に伴い、アルコール飲料やタバコなどの嗜好品への支出が高まりました。興味深いことに、全ての所得水準において、超加工食品支出は5%程度、超加工飲料への支出は2%程度でした。
食品への各国の予算配分は、所得水準、食料輸入、生産増加率、一人当たりGDPや文化など、様々な要因に影響されるようです。食品および嗜好品への支出は世界的に下落傾向にあるものの、高所得国と低所得国の支出の乖離は、平準化の見込みは低いことを示唆しています。果樹、糖類や菓子類、ミネラルウォーターやソフトドリンク、タバコ、の分野に関しては、予算に占める割合は拡大傾向にある国もあれば下落傾向にある国もあります。
論文は、支出パターンは、経済的制約のもとでの消費者の食の選択を反映したあくまで推計値であって、食事摂取量を示すものでないことに注意を喚起しています。また、本研究は、地域・国レベルでの差異について詳しく見てはいません。将来の食料需要やその環境・健康へのインパクトを予測し、政策に繋げていく上で、サブサハラアフリカやアジアなど、地域別の食品支出パターンについての研究が必要となっていくと考えられます。
(参考文献)
Liang, W., Sivashankar, P., Hua, Y. et al. Global food expenditure patterns diverge between low-income and high-income countries. Nat Food (2024). https://doi.org/10.1038/s43016-024-01012-y
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)