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1065.グリーンアジアレポートシリーズ第3号「BNI技術」を公表

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1065.グリーンアジアレポートシリーズ第3号「BNI技術」を公表

 

グリーンアジアレポートシリーズの第3号「BNI技術」が公表されました。このシリーズはアジアモンスーン地域の行政官、研究者、普及担当、生産者、民間セクターを含む多様な関係者の参考となるよう、アジアモンスーン地域で共有できる基盤農業技術(scalable technologies)について紹介し、同地域の食料システムの変革に貢献することを目的としています。第3号は、これまで国際農研が主導して研究を進めてきた生物的硝化抑制機能(biological nitrification inhibition: BNI)を紹介します。BNI技術には、施肥量の削減や農業による環境負荷の低減が期待されています。

近代農業では、作物成長の促進と収量向上のため、農地への窒素肥料の投入が不可欠です。しかし近年、窒素肥料の過剰な施用による環境負荷が大きな問題となっています。窒素肥料は「アンモニア態窒素」で与えられることが多いですが、アンモニア態窒素は土壌微生物の働きで酸化され「硝酸態窒素」に変化します。その過程を「硝化」と呼びますが、近年の土壌では硝化のスピードは著しく速く、硝酸態となった窒素は溶脱しやすいため、作物に吸収される前に多くが水圏環境に流れ込み、水域の汚染や富栄養化を引き起こします。また硝化の過程で、一部の窒素は二酸化炭素の298倍もの温室効果を持つ一酸化二窒素ガスとなり大気中に放出されます。この結果、近代農業では作物の窒素利用効率は5割程度と非常に低くなっています。国際農研が発見し農業技術として開発を進めている生物的硝化抑制(BNI)とは、作物が根から分泌する化学物質(BNI物質)が土壌微生物による硝化を抑制する機能です。硝化を抑制すればアンモニア態窒素は長く土にとどまるため、作物の窒素利用効率が向上し、少量の窒素肥料で収量を維持できます。施肥量の削減は、環境に放出される反応性窒素による環境負荷の低減に直接つながります。

このレポートでは、まず近代農業と窒素循環の現状から硝化抑制の必要性を説明し、その硝化抑制のための技術としてBNIを位置づけ、他の硝化抑制技術に対する優位性について述べています。次いでBNI機能の一般的な原理を解説し、これまでに研究されてきた数種の作物のBNI機能に関する生理生態学的、また分子遺伝学的な知見についてレビューを行いました。そして、BNI技術の将来的な展望を見据えつつ、最近開始されたBNI技術の社会実装に向けたアプローチを紹介しています。


レポートシリーズ https://www.jircas.go.jp/ja/greenasia/report 
みどりの食料システム国際情報センター https://www.jircas.go.jp/ja/greenasia 

BNI技術 ―21世紀地球規模課題に対する遺伝学に基づく解決策― https://doi.org/10.34556/gars-j.3.1

 

(文責:日本大学生物資源科学部教授(国際農研特定研究主査) 飛田哲)
 

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