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1006. 疾病負荷に関する最新研究

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1006. 疾病負荷に関する最新研究

 

集団の健康状態をあらわす、疾病負荷(disease burden)という言葉があります。平均寿命だけでは捉えられない、疾病や障害による程度や負担などを考慮するものです。1990年代には疾病・障害の程度や期間などを考慮した「障害調整生命年(DALYs: disability-adjusted life-years)」が提唱され、この指標をもとに世界中の健康の増減を定量化する最も包括的な取り組みである世界疾病負荷調査(GBD: global burden of disease study)が実施されてきました。

疾病負荷の推定値が利用可能になると、疾病軽減のための戦略としてエビデンスに基づく介入が促進されます。 また、SDGsなど国際的な健康目標に向けた進捗状況をより厳密に監視することもできます。 

ここで使われる用語について先に簡単にご説明すると、健康寿命(HALE: healthy life expectancy)とは、健康的に生活できる年数です。損失生存年数(YLLs: years of life lost)とは、理想的な平均余命から早期死亡によって失われる年数です。障害生存年数(YLDs: years lived with disability)は健康を損なった状態で過ごす年数です。DALYs=YLDs+YLLsであり、DALYsは、理想的な平均余命から乖離した年数を示します。

本日は、4 月 17 日にランセット誌に掲載された論文(GBD 2021 Diseases and Injuries Collaborators, 2024)をご紹介します。本論文では、GBD2021の最新調査結果を提示しています。寿命を縮め健康状態を悪化させる病気や怪我、さまざまな原因による疾病負荷が時間の経過とともにどう変化したかだけでなく、これらのパターンが国や地域によってどう異なったかも調査しています。今回、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる健康損失の推定値も初めて示されました。

世界の DALYs は、2010 年の 26億3000万年から 2021 年には 28 億8000万年に増加しました。増加の多くは人口増加と高齢化によるものであり、年齢を標準化すると減少傾向となっていましたが、それでも新型コロナの2年間(2020年と2021年)については年齢を標準化しても世界の疾病負荷がこの30 年間で初めて増加した年となりました。2021年のDALYsの原因トップ3は、新型コロナウイルス、虚血性心疾患、新生児障害でした。また、2010年から2021年にかけてうつ病性障害で 16.4%、不安障害で 16.7% 増加しました。2021年のDALYsの31.8%はYLDsによるものであり、YLDsの原因のトップ 3 は、腰痛、うつ病、頭痛障害でした。なお、2010 年から 2021 年の間に、出生時HALEは2010年の61.3歳から2021年には62.2歳まで増加しました。

パンデミックによる(1)健康への直接的な影響、 (2) 精神障害など間接的な健康への影響、(3)医療システムの過剰な負担と政策の不備がDALYs増加の要因とされています。 この影響は、年齢、性別、場所によって不均等であり、不平等を悪化させました。なお、他の主要な伝染性疾患、母体疾患、新生児疾患、栄養疾患(CMNN)の世界的な傾向は改善しつつありますが、パンデミックへの備えとともに、現在存在する疾患の予防と治療政策、医療システムの強化も引き続き非常に重要となるでしょう。

 

(参考文献)
GBD 2021 Diseases and Injuries Collaborators. Global incidence, prevalence, years lived with disability (YLDs), disability-adjusted life-years (DALYs), and healthy life expectancy (HALE) for 371 diseases and injuries in 204 countries and territories and 811 subnational locations, 1990–2021: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2021. The Lancet. 17 April 2024. doi: 10.1016/S0140-6736(24)00757-8.(2024年4月22日アクセス)

 

(文責:情報広報室 白鳥佐紀子)


 

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