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886. 適応策のアクター

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886. 適応策のアクター

気候変動に起因する異常気象が頻発化する世界において、気候変動適応策をテコ入れしていくことが求められています。一方、適応策の計画・実施においてどのような社会的アクターが存在し、どのような役割を負うべきかについて不明なことが多すぎます。Nature Climate Change誌で発表された論文は、ケーススタディに関する文献を精査し、適応策実施において個人・世帯が最も重要なアクターであるとし、適応策の制度的設計に関わる政府やその他アクターとの連携調整の必要性を強調しました。

論文によると、適応策のアクターとして個人・世帯が言及されたケース(全ての文献の64%)が最も多く、適応策を実際に実施する主体として記述されたケースも多かったとします。金融の役割を担うアクターについては、国際・多国籍ガバナンス機関、民間セクター、市民社会組織、中央政府、が挙げられました。適応策の計画を担うアクターについては、政府が言及される一方、中央政府・地方政府・地方自治体のレベルについては明確なパターンはありませんでした。市民社会組織は様々なアクター間の調整と認識向上において重要なアクターと見なされました。気候変動適応の重要性についての認識向上については、とりわけ気候変動インパクトの評価や適応策のモニタリングを行う学会の役割が指摘されました。全般的に、民間セクターが言及されたのは金融や適応策実施との関係に限られていました。

適応策実施のアクターについて地域別にみると、欧州・北米・オーストラリアにおいては、政府が言及されるケースが個人・世帯に言及するケースを上回りました。対照的に、アジアやとりわけアフリカにおいて、個人・世帯が政府アクターを大きく上回りました。中南米や小島嶼国では、市民社会アクターが言及される傾向がありました。

個人・世帯が気候変動適応の重要な実施アクターでであり、かつ行動変容・文化的対応の主体であるのに対し、計画・ファイナンスを担う政府アクターとの制度的つながりが希薄であることについて、学術的な文献は変革的な適応策を実施する上でのギャップを示唆しているとし、複数のアクター連携のためのシステマチックな社会的支援条件整備の必要性を示唆しました。

 

(参考文献)
Petzold, J., Hawxwell, T., Jantke, K. et al. A global assessment of actors and their roles in climate change adaptation. Nat. Clim. Chang. (2023). https://doi.org/10.1038/s41558-023-01824-z

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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