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852. 2023年8月アジアの天候

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852. 2023年8月アジアの天候

この夏、北半球で異常な熱波が観測されていましたが、アジアの各地でも史上最高気温や異常気象が報告されました。南半球でも、オーストラリアでは今年の冬は平均気温が16.75℃と記録的な温かさを観測したそうです。日本の気象庁も、この夏(6-8月)の平均気温は1898年以降最も高くなったと報告しています。 

 

世界最大の人口を抱えるインドでは、この8月は観測史上最も暑く乾燥した月でした。インドはモンスーン雨季の真っ最中で、平年はこの時期に年間降雨量の70-80%相当の雨が降るそうです。しかし、8月初旬に北部地域で破壊的な洪水を伴う豪雨にもかかわらず、全体的な降雨量は平年よりもずっと少なかったことが報告されています。

インド気象局によると、2023年8月、インド全体の平均降雨量は162.7mmを記録、1971-2020年の平均値である254.9mmよりも36%マイナスで、2005年に記録した191.2㎜を更新して1901年の観測史上最も少ない値でした。インド中部、また南部も1901年以来の低い降水量を記録しました。一方、2023年8月の降雨量の日々の変動も大きく、1197の計測点のうち58地点で極めて極端な豪雨(204 .4 mmを超える)も報告されました。2023年のモンスーン(季節風)は全般的に弱く、例年では低気圧が5回・平均16.3日観測されるところを2回・9日しか観測されなかった一方、北緯30度地域に低気圧がとどまり、ヒマラヤ西部では豪雨をもたらしました。

インド気象局は、9月初旬には例年なみか少ない降雨を予測していますが、日々・月ごとの降雨量の変動が極端化していくことで、天水に依存する農業も大きく影響を受ける可能性もあります。


長期的なトレンドから外れた日々の降雨パターンの極端な変化は、社会やエコシステムに大きな影響を及ぼします。地球レベルでは温暖化が進むごとに平均降雨量が若干増加することが予測されているとのことですが、そのインパクトは地域で違います。気候変動のもとで、もともと湿潤な地域はより降雨量が増え(‘wet-gets-wetter’ or ‘wettest-gets-wetter’ response.)、海洋温暖化が進む地域では降雨の強度が高まる(‘warmer-gets-wetter’)と予測されています。一方、人為的な温暖化の影響を観測値から抽出することは難しいとされてきました。

8月30日にNature誌で公表された論文は、深層学習モデルを用い、気候変動が日々の降雨の極端な変動をもたらしている傾向について発表しました。論文著者らは、畳み込みニューラル ネットワーク (CNN) convolutional neural network (CNN)を用い、日々の降雨量と年平均気温について観測値および予測シミュレーションからのデータを学習させました。分析結果は、2010年代半ばころから日々の降雨量のデータが自然の変動幅から明らかに乖離してきており、降雨量の変動が地球温暖化の優れた予測指標であることを示しました。論文は、長期的な年間平均降雨量と自然の変動との差異の判別が難しい場合でも、日々の水循環に対する地球温暖化のインパクトは既に現れつつあると述べています。

 


(参考文献)
Ham, YG., Kim, JH., Min, SK. et al. Anthropogenic fingerprints in daily precipitation revealed by deep learning. Nature (2023). https://doi.org/10.1038/s41586-023-06474-x

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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