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843. 飼料木のサイレージ発酵を促進する調製法とメカニズムを解明

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843. 飼料木のサイレージ発酵を促進する調製法とメカニズムを解明 

 

世界経済の継続的な発展と人口の増加に伴い、肉、卵、牛乳などの畜産物に対する需要は増加の一途をたどっています。畜産物生産には飼料が必要ですが、飼料生産には地域的な偏りがあり、日本では飼料自給率は30%に及ばず、東南アジア、南アジア等、多くの国々においても、飼料不足が問題となっています。この問題を克服するために、自給飼料の生産と栄養価の高い天然飼料資源の利用法の開発が急務となっています。一方、サハラ砂漠以南のアフリカ(以下、サブサハラ・アフリカ、SSA)に位置する熱帯サバンナ等の半乾燥地では、小規模農家は数頭ほどの家畜(ウシ、ヒツジ、ヤギ等)を所有しています。そして、経済的余裕が乏しい中で、飼料を栽培または購入して家畜に与えることは少なく、飼料の多くは作物残渣と、刈り取って家で家畜に与えたり、放牧時に家畜が採食する野草、そして、飼料木(枝葉が飼料となる木本植物)です。これらの飼料の利用には季節性が著しく、乾季の初めに収穫された作物の残渣は、その終わりまでになくなります。野草や飼料木は雨季には青々と生長しますが、乾季には枯れ、葉を落とします。よって乾季に家畜飼料の量も栄養価も低下することとなり、家畜の体重は減少し、畜産物の生産性は低下します。そこで、コストを掛けず、地域にある飼料資源を用いて、年間を通じて良質の飼料を生産することが喫緊の課題です。


国際農研は、SAAに属するモザンビークの小規模農家において、畑作物栽培と畜産との連携を通じて効率的に食料と飼料を確保するとともに、所得向上等を目指した研究を行いました。そして作物残渣や飼料作物等、現地で入手できる飼料資源を配合して発酵TMRを調製し、乳牛に与えることで、乳生産量と収益性を同時に向上できることを示しました。しかし、栄養価を高めるために配合した飼料には購入したものも含まれているため、小規模農家にとって、コストをさらに低減できる飼料生産が求められています。


モザンビーク等のSAAでは、人口増加に伴う耕地の拡大が進む一方で、耕地化に適さない放牧地も広大です。飼料木は放牧地や道端には自生し、居住地には植栽されていることが多くあります。世界で飼料として利用される主な飼料木には、クワ科のマグワ[Morus alba (L.);以下クワ]やカジノキ[Broussonetia papyrifera (L.)]、ワサビノキ科のモリンガ[Moringa oleifera (L.)]、マメ科のグリリシディア[Gliricidia sepium (Jacq.)]などがあります。これらには共通した多くの特長があります。例えば乾燥に強い、挿し木で増殖し、広範囲の土壌pH条件で生育する、生育率と収量が高い、植栽にかかるコストは低い、家畜が好んで食べる等です。さらに、イネ科の作物残渣や野草と比べて、その新鮮な枝葉はタンパク質、脂肪含量が高く、生理活性成分、ビタミン、カルシウムやリン等のマクロミネラルなど様々な栄養素が豊富に含まれ、他の飼料資源由来の栄養分の不足を補うことができます。一方で、乾季には枝葉の木質化が進むとともに落葉するため、栄養分が著しく失われます。このことから、枝葉を乾燥させることなく、雨季には十分にある飼料としての量と栄養分を、乾季まで保存して利用する必要があります。


そこで、飼料木として利用でき、国内で入手可能なクワを用いて、新鮮な飼料原料を長期保存するために発酵させた飼料、サイレージの効果的な調製法と、発酵の前後における細菌叢のダイナミックな変動、細菌種相互の相関関係を明らかにしました。


本研究により、クワ枝葉を用いてサイレージ調製が可能なこと、サイレージの品質は乳酸菌、セルラーゼを単独に添加することで改善し、さらにそれらを併せて添加することで相乗効果が得られてより改善することを明らかにしました。セルラーゼは繊維成分を糖に分解します。乳酸菌はその糖を併せて使って増殖し、良質なサイレージ発酵が進みます。その過程で、グラム陽性菌である有用な乳酸菌が、病原性を有するものが多いグラム陰性菌、さらに一部の温室効果ガスを排出する乳酸菌を死滅(あるいは増殖を抑制)させ、自らは圧倒的に増殖します。


この成果、および知見を、今後、半乾燥地で乾季に不足する家畜栄養の改善に応用することが期待されます。現地にある飼料木を用いて、その量的、質的に豊富な雨季における栄養を、サイレージ化という保存技術を適用して、栄養の不足する乾季に与えることができます。これにより家畜生産性や農家所得の向上という直接的な効果が期待されます。また輸入等に頼らず、現地にある飼料資源を活用するため、より持続可能な畜産を実現することができます。


本成果は、微生物学の国際誌Biotechnology for Biofuels and Bioproductsに、Cellulase-lactic acid bacteria synergy action regulates silage fermentation of woody plantと題して発表されました。

 

(参考文献)
Zhumei Du, Seishi Yamasaki, Tetsuji Oya and Yimin Cai (2023) Cellulase-lactic acid bacteria synergy action regulates silage fermentation of woody plant. Biotechnology for Biofuels and Bioproducts. https://doi.org/10.1186/s13068-023-02368-2

(関連するページ)
507. 南部アフリカにおける家畜生産性向上に向けた栄養豊富なマメ科木本植物の活用

 

(文責:生産環境・畜産領域  蔡 義民・大矢 徹治・山﨑 正史・中村 智史、食料プログラム 中島 一雄)
 

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