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756. 作物遺伝資源の多様性保全に向けて

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756. 作物遺伝資源の多様性保全に向けて

世界の多くの作物の遺伝資源のうち、人類によって食として利用されてきたのは5,500種と言われています。しかし、農業の近代化によって、20世紀中に少数の主食作物の品種改良を軸とした大量生産・大量消費体制が確立、グローバル化によって展開していきます。推計では、近年、カロリー摂取の50%がコメ、メイズ、小麦に依存し、75%が12種の作物と5種の家畜のみに依存するとされています。この大量生産体制の下で、平均的には一人当たりカロリー供給の増加がもたらされたものの、世界全体での作物の種の多様性は喪失し、とくに地域固有の食・遺伝資源が失われてきました。

3月27日、PNAS誌で、作物遺伝資源の多様性保全に関する特集号が発表されました。 

世界の食料システムは、気候変動、異常気象、土地・水資源の制約、生物多様性喪失、土壌劣化、市場の不安定性、そのほか様々な環境・社会経済危機に直面しています。世界の食料需要が益々高まる中、食料システムへの負荷は増す一方です。食料システムの強靭性と持続性は、作物の多様性に大きく依存しています。多くの育種研究者は新たな品種開発のために、また農家はリスク分散のために、作物の多様性を利用します。しかし、そのためには、遺伝資源が保全され、そして利用可能でなければなりません。

作物遺伝資源の多様性の喪失は、我々の食料システムの脆弱性につながります。従来、主要な作物が繁殖してきた環境は、より不安定で予測不可な状況に置かれており、将来の食料安全保障を脅かしかねない勢いです。

特集号の論文は、作物遺伝資源に関する研究・育種のニーズが高まる中、国際的な作物遺伝資源多様性保全システムは、公平なアクセス、および便益のシェアリングを保障しつつ、単に生物資源そのものを提供するだけでなく、包括的で一貫した方法で作物遺伝資源に関する適切な情報を提供する必要性を訴えました。


(参考文献)
Hannes Dempewolf, Sarada Krishnan, and Luigi Guarino (2023) Our shared global responsibility: Safeguarding crop diversity for future generations, March 27, 2023. PNAS 120 (14) e2205768119
https://doi.org/10.1073/pnas.2205768119

Susan R. McCouch and Loren H. Rieseberg (2023) Harnessing crop diversity, March 27, 2023. PNAS 120 (14) e2221410120 https://doi.org/10.1073/pnas.2221410120

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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