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725. 木のてっぺんで熱帯雨林の恵みを調べる 〜地上 50mでの光合成〜

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725. 木のてっぺんで熱帯雨林の恵みを調べる 〜地上 50mでの光合成〜

本日の記事は、広報JIRCAS掲載記事を再編し、国際農研の若手研究者の視点で、熱帯雨林の力を知り、守るための研究について紹介します。

 


熱帯雨林ってどんな森?

熱帯雨林と聞くとどんな森を思い浮べますか?蒸し暑くて草や木が生い茂った、猛獣や毒蛇がうじゃうじゃいるヤバそうな森というイメージではないでしょうか。

私も大学生の時にボルネオ島に行くまでは同じようなイメージでした。

確かに、初めて体験した熱帯雨林の中は薄暗くてじめじめしていました。でも、日本の真夏のような暑さになることはなく、朝晩は涼しくて快適です。もちろん蚊やヒルはいますが、大型の動物は隠れていることが多く出会うことはほとんどありません。そして熱帯雨林にはカラフルで不思議な形をした昆虫など、たくさんの種類の生き物が暮らしています。植物も豊富で、例えばボルネオ島の1040m×500mの調査区の中には約1200種類の樹木が生えています。これは日本全国に生育している樹木の種数に匹敵し、熱帯雨林が生物の宝庫であることを物語っています。


いろいろな森の恵み

日本からちょっぴり遠い熱帯雨林ですが、そこからやってきた産物は皆さんの身近なところで活躍しています。例えば、家具やフローリング材にラワン材などと書かれていたら熱帯雨林からやってきた木です。他にも、チョコレートや化粧品の油脂、お線香や薬の原料に使われる果実や樹脂もあります。もちろん地元の人たちにとっても、森から得られた食料や医薬品、飲料水などは不可欠です。こうした熱帯雨林からの恩恵がなければ人類の暮らしは成り立たないでしょう。


熱帯雨林の力を知り、守るための研究

熱帯雨林の大きな働きの一つに温暖化の緩和があります。これは、熱帯雨林の樹木が年中光合成を行い、大量の二酸化炭素を巨木の幹などに貯蔵するためです。しかし、熱帯雨林の二酸化炭素の吸収能力は分からないことだらけです。そこで私は葉の光合成について詳しく調べることにしました。そのためには森に生えている様々な高さの木の葉の光合成を直接測る必要があります。今、一言で書きましたが、重いバッテリーや測定機材を持って地上50m以上の葉までよじ登るのが至難の業なのです。木に梯子をかけて登ったりもしたのですが、一日数本も登れば体力の限界を迎え、さらに強風が吹くと木が揺れて生きた心地がしません。この問題はボルネオ島に作られた高さ90mのクレーンを利用することで解決し、光合成の大部分が森林の上層で行われていることや樹種による違いなどが分かってきました。

一方、豊かな熱帯雨林も過度の伐採などで木材などの資源が枯渇して劣化が進んでいます。劣化した森林を修復し、持続可能な林業を行うことが急務です。しかし、劣化した森林にやみくもに苗を植えても環境にうまく適応できずにすぐに枯れてしまいます。そこで様々な樹種による植栽試験などを繰り返し、何年もモニタリングすることで、林業に適した樹種や品種の見極め方や、植栽方法を現地の研究者や林業関係者の方々と調べています。

 

 

写真:マレーシアの熱帯雨林では林冠観察用のクレーンに乗り、地上50mを超える木々の梢で葉の光合成などを調べています。

 

本文は、広報JIRCAS掲載記事を再掲(一部変更あり)しています。
https://www.jircas.go.jp/ja/publication/jircas/11

 

(文責:林業領域 田中憲蔵)

 


 

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