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503. 過去50年間の気候変動により熱帯雨林樹木の成長や水利用効率が変化した

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503. 過去50年間の気候変動により熱帯雨林樹木の成長や水利用効率が変化した


地球規模の気候変動は、森林を構成する樹木の分布や成長速度、炭素固定量等に大きな影響を与えている可能性があります。特に熱帯雨林は樹木が巨大で大量の炭素が貯蔵されているため気候変動の影響を正確に予測することは重要です。日本など温帯の樹木は年輪ができるため、100年以上過去にさかのぼって成長量がどのように変化してきたか正確に再現できます。こうした長期的な樹木の成長量データは、気候変動に対する樹木や森林の応答を知る上で重要な手がかりとなっています。しかし、一年を通して高温多雨で気候に季節性の無い熱帯雨林では、樹木は年中成長を続けるため、明瞭な年輪ができません。そのため、熱帯雨林地域では、樹木1本1本の直径を人間の手で繰り返し測定し続けないかぎり、長期的な成長量を求めることは困難とされてきました。

このたび国際誌「Methods in Ecology and Evolution」に公表された研究では、冷戦時代の大気圏核実験による大気中の放射性炭素同位体(14C)濃度の経年変化を利用し、マレーシアの熱帯雨林の樹木の材に含まれる14C濃度から過去の成長量を高精度に特定する新しい技術を確立しました。また、同じく材に含まれる炭素安定同位体(13C)の割合が、樹木の葉の気孔の開き方の指標になることを利用して、過去50年間の大気の乾燥度合いと気孔の開き方を調べました。その結果、マレーシアの熱帯雨林では過去50年間に大気の乾燥が進み、それに伴って樹木は気孔を閉じ気味にして水利用効率を著しく増加させていることが分かりました。気孔を閉じ気味にすることは乾燥に対して水消費量を抑える効果がありますが、光合成も制限されてしまいます。今後、気候変動による乾燥化がさらに進行すると、熱帯雨林樹木はますます気孔を閉じるため光合成による炭素固定能力が低下し、大気中の二酸化炭素濃度の上昇がさらに加速する危険性があります。この成果は今後、気候変動や環境改変等が熱帯樹木に与える影響を多地点で評価することへの貢献が期待されます。

国際農研の「熱帯林遺伝資源の特性評価による生産力と環境適応性の強化【環境適応型林業】」プロジェクトでは、気候変動も考慮した環境適応性強化ための熱帯樹木遺伝資源の育種等に取り組んでいます。 

 

(参考文献)
Tomoaki Ichie, Shuichi Igarashi, Ryo Yoshihara, Kanae Takayama, Tanaka Kenzo, Kaoru Niiyama, Nur Hajar Zamah Shari, Fujio Hyodo, Ichiro Tayasu (2022) Verification of the accuracy of the recent 50 years of tree growth and long-term change in intrinsic water-use efficiency using xylem Δ14C and δ13C in trees in an aseasonal tropical rainforest. Methods in Ecology and Evolution.
https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/2041-210X.13823

高知大のHPへの掲載
http://www.kochi-u.ac.jp/information/2022031500012/ 
プレスリリースへのリンク
http://www.kochi-u.ac.jp/information/2022031500012/files/PRESS_20220309…

 

(アイキャッチ写真解説)
日本など季節のある地域の樹木では樹木の成長量が一年周期で変化するため年輪が明瞭に判別でき、成長量の復元が容易です(左)。一方、熱帯雨林では一年中高温多雨なため明確な年輪は出来ず、いつ材が作られたのか見た目では判別できません(右)。


(文責:林業領域 田中憲蔵) 
 

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