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563. 低土壌肥沃度耐性に関連するイネの遺伝子領域を発見

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563. 低土壌肥沃度耐性に関連するイネの遺伝子領域を発見

コメは世界人口の半数以上にとっての主食で、1日のカロリーの35〜60%、微量栄養素(Fe、Zn)、ビタミン(B)を供給しています。アフリカ大陸の南東に位置するマダガスカルでは、アジアからの渡来時に導入されたコメが、現在も主食の地位を占めています。マダガスカルの年間コメ消費量は1人当たり約136kgで、これは世界でトップクラスです。一方で、人口が増え続けているため、コメの需要は増え続け、供給量が不足するようになっています。この状況はサハラ以南のアフリカ地域(サブサハラアフリカ)でも同様で、コメの消費量が急速に増加し、現地の生産量を上回るようになっています。

サブサハラアフリカの大部分では、コメの生産性は生物的および非生物的ストレスによって制限されています。非生物的ストレスでは、土壌肥沃度の低さが主な問題であり、多くの場合にリン酸(P)が最も主要な制限栄養素となっています。その理由は、マダガスカル等の土壌は一般に風化が進んでおり、リン酸をイネに利用できない形で固定するためです。その結果、イネはリン酸欠乏となり、コメの生産性が低くとどまってしまう問題が起こります。マダガスカルも含めサブサハラアフリカの小規模農家は、十分な量のリン酸肥料を購入する資金に乏しいことが多く、さらに、他の地域に比べて肥料の価格が高いことも問題を大きくしています。アフリカは世界人口の約10%を擁しながら、世界の肥料の0.8%しか消費していないというジレンマがあるのです。

現代のイネ育種に利用されている遺伝子プール(gene pool)の中には存在しなくても、作物ジーンバンク(gene bank)に保存されている伝統的な品種に存在する遺伝子の中には、劣悪な環境下でも作物収量を向上させるものが見つかる可能性があります。このような遺伝資源を利用することで、アフリカで続く生産量と供給量のギャップの解消につながることが期待されます。しかし、ジーンバンクの遺伝資源は、この目的には十分に活用されていませんでした。そこで国際農研は、国際稲研究所(IRRI)、マダガスカル国立農村開発・応用研究センター(FOFIFA)、東京大学と共同で、IRRIのジーンバンクが保有する500種類のイネ遺伝資源(アクセッション)を低投入栽培条件下で評価し、イネの収量向上に利用できる低肥沃度耐性に関連する遺伝子領域(遺伝子座)を同定することに成功しました。

この研究では、IRRIのジーンバンクから輸入したイネ遺伝資源(アクセッション)をマダガスカル中央高地において無肥料で栽培し、様々な形質を調査してデータを得ました。さらに、これらの遺伝資源の遺伝子配列を基にゲノムワイド関連研究(GWAS)を行い、イネの収量向上に利用できる、低肥沃度耐性に関連するドナー(遺伝子提供系統)および遺伝子領域(遺伝子座)の特定を試みました。その結果、まず1株あたりの穂の重さ、わらの重さ、出穂日、株の高さなどに関する量的形質遺伝子座(QTL)が同定されました。次に出穂日と株の高さについて、既知の主要遺伝子の位置に遺伝子座が検出され、GWAS手法の有効性を確認することができました。また、5番染色体および11番染色体には穂の重さに関する2つのQTLを検出しました。さらに、リン酸および窒素欠乏下での表現型から、11番染色体のQTLは栄養欠乏下での根の成長への優先的な資源配分に関係している可能性も見出すことができました。そして、これらのQTLをもつドナーを同定し、これらを持たない現地品種と交配して、一般的に行われているような試験場での選抜ではなく、マーカー選抜と現地の環境における選抜を組み合わせた品種開発を開始しました。これまでに育成された品種と異なり、生産性の低い土地でも収量性の高い、現地の小規模農家にとって有益な品種の開発に貢献することが期待されます。

この成果は、国際誌「PLOS ONE」に「Phenotyping of a rice (Oryza sativa L.) association panel identifies loci associated to low soil fertility on smallholder farm conditions in Madagascar」と題して掲載されました。

Citation: Pariasca-Tanaka J, Rakotondramanana MF, Tojo Mangaharisoa S, Ranaivo HN, Tanaka R, WissuwaM (2022) Phenotyping of a rice (Oryza sativa L.) association panel identifies loci associated with tolerance to low soil fertility on smallholder farm conditions in Madagascar. PLoS ONE 17(5): e0262707. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0262707

(文責:生産環境・畜産領域 田中ファン・Matthias Wissuwa、食料プログラム 中島一雄)

 

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