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465. トンガの水資源と災害の影響

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465. トンガの水資源と災害の影響


2022年1月15日、トンガ王国(以下、トンガと記載)のフンガ・トンガ-フンガ・ハーパイ火山(以下、フンガ・ハーパイ火山)が大噴火を起こし、その被害規模が明らかになりつつあります。 

大洋州の西ポリネシアに位置するトンガは170余りの島と4つの諸島で構成された人口約10万人の島国です。

本記事筆者がJICAの短期専門家として2014年に現地調査を実施したリフカ島は、フンガ・ハーパイ火山から約135km北東のハーパイ群島に位置します。リフカ島を含むハーパイ群島はマグマにより火山活動が起きている地域からは距離があり、生成年代の古い低島が多く、海水面上昇を伴う気象災害の影響を受けやすくなっています。筆者訪問時はこの年の1月に発生したサイクロンの影響が残っており、公共施設、水利施設や家屋が壊れたままでした。

このように、リフカ島を含むトンガ国の離島は、極端気象等による水害に脆弱(人命が危険にさらされ、生活基盤整備の復興が遅れる)である一方、一部の島を除いて河川や湖沼は発達せず、水資源は基本的に天水に依存し、乾季や渇水期には、「淡水レンズ」を含む地下水が重要な水資源となります。淡水レンズとは、島嶼において海水を含む帯水層の上部に密度差によってレンズ状に浮いている淡水域を指します。水源を淡水レンズに依存している低平な小島嶼の水資源は、地球温暖化に伴う海面上昇によって塩水化が進むと予想されるとともに、取水量の増加や干ばつ等による涵養量の減少の影響を受けやすいことから、その保全のための技術開発が求められています。 

リフカ島では、淡水レンズは飲料水やかんがい用水として利用され、とりわけ干ばつの年は灌漑のために農業の淡水レンズへの依存は高くなります。リフカ島の主要農産物は、主食のタロイモやキャッサバなどをはじめ、バナナ、パンの実、スイカの果物、及びマメですが、カボチャ、トマト、ピーマン、及びトウガラシといった野菜も栽培されているようです。しかし、近年、飲料水や灌漑用水の需要増加より、淡水レンズからの過剰取水で淡水レンズが塩水化しており、取水井から取水された地下水にはかなり塩水が混入した結果、64%の井戸が塩水化していることが国際農研と農研機構農村工学研究部門が実施した現地調査の結果明らかになっています(https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010892396)  。

今回のフンガ・ハーパイ火山の噴火によって、リフカ島も津波に被災したことが伝えられています。トンガ諸島における火山灰による飲料水汚染の問題が伝えられる一方、 津波の冠水被害について未だに詳しい情報はありません。しかし、国際農研が過去に他の熱帯島嶼で行った研究に基づけば、島嶼の塩水化が進行すると、飲料水や灌漑用水として淡水レンズを利用することは不可能となる可能性もあります。これまで、火山の噴火による津波に被災し、海水が冠水した後の島嶼において、1)淡水レンズの上下境界面のモニタリング、2)減少した貯水量の算定、及び3)水質の変化の測定を行った研究事例はほとんどなく、塩水化の進行状況のモニタリング、塩水化させない水利用(取水)や塩水化を軽減・防止する技術の開発が強く望まれます。

(文責:農村開発領域 幸田和久)

 

トンガ王国の位置図

屋根が吹き飛んだ学校。2014年撮影:農研機構農村工学研究部門 吉本周平上級研究員提供

故障した水利施設 2014年撮影 by 幸田

倒壊した水利施設 2014年撮影 by 幸田

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