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464.大規模データベースを使って有用樹木の様々な生理的能力を明らかに

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464.大規模データベースを使って有用樹木の様々な生理的能力を明らかに

スギとヒノキは造林樹種として重要で、日本の人工林の大部分占めています。またスギは日本の固有種とされていますが、インドや台湾など亜熱帯地域でも植林されていて、地域の木材資源として利用されています。これらの種の光合成や乾燥耐性などの生理的な特性を把握することは、成長の予測や気候変動の応答を解明する上で、不可欠な情報です。

経験的にはスギは湿潤な環境で成長が早く、ヒノキは乾いた環境にも耐えられるとされています。こうした特性の背景には、光合成など生理的な能力の違いがありますが、個別の研究結果ではデータ数が限られているうえ、苗木段階のデータに偏っており、苗木から成木まで網羅的に生理能力を解明するには限界がありました。

このたび国際誌PLOS ONEに公表された研究では過去70年間に発表された文献を集めた大規模データベース注)を用いてスギとヒノキの生理能力に関する様々な特性を比較しました。

その結果、スギの早い成長は強光を効率よく受け止める葉の配置や材密度が低いことが要因でした。一方、スギは蒸散能力が高く、水消費が大きな樹種であること、ヒノキは葉や木部の乾燥耐性が高いことが示され、経験的な知見と一致しました。また、意外なことに、両種の葉の面積あたりの光合成能力には差がなく、成長に伴って葉の乾燥耐性は上昇するものの、葉の養分濃度や光合成が低下し、成長も制限されることが分かりました。次に、世界的な視野で見てみると、スギ・ヒノキが属するヒノキ科樹種の中では、両種とも乾燥耐性能力は中程度でした。この事は日本の気候が歴史的に比較的湿潤な環境であったことと関係していると考えられます。今後、気候変動による降水量の減少で、極端な干ばつが頻発し、これまで経験がないような強い乾燥が起こると、スギ・ヒノキは成長低下や、さらに枯死する危険性が高いことが明らかになりました。今回得られたスギとヒノキの定量的な生理能力は、人工林に対する気候変動影響の精緻な予測や、より気候変動に強い森林の管理方法の検討に役立ちます。

熱帯地域にも、木材としても様々な優れた特性を持つ樹木があります。しかし、熱帯樹木に関する定量的な生理能力に関するデータベースは十分整備されてきませんでした。気候変動が加速化する昨今、多様な森林遺伝資源を活用した環境適応性の高い持続可能な熱帯林管理を確立していくことが急務です。国際農研の「熱帯林遺伝資源の特性評価による生産力と環境適応性の強化【環境適応型林業】」プロジェクトでは、生産力と環境適応性の強化ための熱帯林遺伝資源の特性評価のデータ整備に取り組んでいます。 


注)日本全国と台湾や朝鮮半島などで得られたスギとヒノキに関する文献を1950年代から網羅的に収集し、光合成や材密度、葉の形質など177の特性についてデータベース化したもので一般に公開されている(Osone et al. 2020)。両種合わせて計24,700点のデータが収録されており、単一の樹種当たりのデータ数では世界最大規模である。詳細については下記論文や解説記事を参照してください。

Osone et al.2020. Ecological Research, 35:274-275. 
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20200319-1.html

(アイキャッチ写真解説)スギとヒノキは同じヒノキ科の針葉樹ですが、葉の形が大きく異なり、生態的な特性にも差が見られます。スギの葉は立体的で強い光を効率的に受け止めるのに適していますがヒノキの葉は平面的です。


(参考文献)

Osone Yoko, Hashimoto Shoji, Tanaka Kenzo (2021) Verification of our empirical understanding of the physiology and ecology of two contrasting plantation species using a trait database. PLOS ONE, 16(1), e0254599,
DOI:10.1371/journal.pone.0254599, URL: 

森林総合研究所「大規模データベースを使ってスギとヒノキの様々な生理的能力を明らかにした」2022.1.19. https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2022/20220119-03.html

 

(文責:林業領域 田中憲蔵)