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191. 後発開発途上国レポート2020年版

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2020年12月、国連貿易開発会議(UNCTAD)は、「後発開発途上国レポート2020年版」を公表しました。

後発開発途上国(LDCs)の一人当たりGDPは、2020年に2.6%縮小し、過去30年間で最悪の経済状況のもと、47か国中43か国で平均所得の落ち込みが予測されています。COVID-19による経済危機によって貧困率は32.5%から35.7%に上昇すると見られています。LDCsは世界人口の14%に相当しますが、世界の最貧困層 (1日当たり1.9ドル以下で暮らしている人々)の50%を抱え、世界経済には1.3%しか貢献していません。

脆弱な医療システムにもかかわらず、LDCsは他の国々と比べてCOVID-19パンデミックの影響は小さく、2020年11月末の時点で、100万人あたりのCOVID-19死亡者が17人で、その他途上国における100万人あたり138人、先進国における100万人あたり536人を大きく下回っています。

一方、LDCsは全体として、その他途上国から大きく後れをとってきました。1990年のその他途上国の一人当たりGNIはLDCsの3倍でしたが、現在までにその差は6倍になっています。1990年代初期にはLDCsの労働生産性はその他途上国の25%であったのが現在では18%です。経済構造の転換に成功しているのは、バングラデッシュ、カンボジア、エチオピア、ラオス、ミャンマー、ネパール、ルワンダ、のごく一部のLDCsに限られています。アジアのLDCsでは製造業の重要性が近年高まり、GDP19%・雇用の12%を占めますが、アフリカとハイチではGDPの9%・雇用の5%と、21世紀初頭からほぼ変わっていません。人口増の予測の下、LDCsは毎年1320万人の新たな雇用を生み出す必要があります。しかし、生産キャパシティは低くとどまり、その他途上国の40%以下に留まっています。

LDCsは携帯電話の普及という点でその他途上国との差を縮めようとしています。LDCsは100人あたり73携帯契約、その他途上国では105です。しかしデジタル格差の解消はまだ遠いようです。LDCsでは100人あたりインターネット使用者は20人以下、その他途上国では55人、 先進国では85人です。さらにLDCsでは男性の方が女性より2倍以上インターネットへのアクセスがあり、ジェンダー間格差もあります。LDCsの課題は、第四次産業革命とデジタル経済への移行以前に、彼らの生産基盤がその前の3つの産業革命に十分組み込まれてこなかったということです。LDCsの農民の多くはデジタル技術を利用するに必要なインターネットのブロードバンドへのアクセスを持ちません。アフリカのLDCsにとってはアフリカ大陸自由貿易圏がデジタル技術・デジタルトランスフォーメーション・ビジネスモデルの採択と投資家誘引への機会を提供するかもしれません。

国際農研は開発途上国地域における農業技術開発にかかわってきましたが、その対象国の多くはLDCsです。現地のインフラ・キャパシティ課題を踏まえつつ、デジタルなど新しいツールの活用方法も模索しながら、生産基盤である農業の底上げ・安定化をはかるための技術開発を目指していく必要があります。

 

参考文献

UNCTAD. The Least Developed Countries Report 2020  https://unctad.org/webflyer/least-developed-countries-report-2020

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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