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92. Emerald Publishing: 誰も排除しないために - The Grobal Inclusivity Report 2020

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情報収集分析

インクルーシビティ(Inclusivity)、「誰も排除しない」は持続可能な開発目標(SDGs)を理解するための重要なキーワードの一つですが、学術部門がこの点についてどのような貢献が可能かという視点で情報をまとめた「The Grobal Inclusivity Report 20201」が世界的な学術出版グループの一つEmerald Publishingから発表されました。(https://www.emeraldgrouppublishing.com/global-2020-inclusivity-report)。

このレポートは、2020年3月に実施された世界の202カ国の1055人の研究者・編集者等へのアンケート調査と、アメリカ合衆国とイギリイスの1000人の一般市民のデータをもとに作成されたもので、インクルーシビティへの期待やその効果、実現に向けての障害、そして学術部門が果たす役割についてまとめています。

本レポートでは、学術部門の多くの人が、職場、そしてより広い意味での社会にとって、インクルーシビティが重要だという点については賛同し、インクルーシビティは、思考の多様化、創造性や生産性、職場のやる気を高めるなどの効果があるとしています。しかし、学術部門80%の人々が経済的な効果があると考える一方で、13%の人々がインクルーシビティ自体は特に利益を生まないと考えていることも明らかとしています。

また、学術部門の多くの人々は、インクルーシビティの高い社会を作る上で、大きな障壁は「貧困」や「人種」、「階級」であり、どのような経済・社会状態で生まれるかが、その人の生涯を通じて得ることができるチャンスを大きく左右すると考えているようです。そして、興味深いことに、これまで50年間にわたって着目をされてきた「年齢」や「性別」はインクルーシビティの高い社会を作る上で大きな障壁であるものの、「貧困」等の問題よりも重要度がやや低いと判断されています。しかし、その一方で「性別」については、男女による認識の差も示され、インクルーシビティを実現するまでの過程の複雑さも浮き彫りにしています。

このようなインクルーシビティについて、学術部門からはどのような貢献ができるのか、という問いに対して、本レポートでは「正しい政治的判断」、「人々の意識向上」、「学びの質の向上」などについて、学術部門は「知識の共有」を通じて大きな貢献できるとし、さらなる活動や支援の必要性について述べています。非常に複雑なインクルーシビティの問題ですが、学術部門は、政治やビジネス、教育、市民社会、その他の多様な部門とともに、インクルーシビティの高い社会を実現するための大きな鍵となると本レポートは強調しています。

国際農研では、これまで開発途上地域における共同研究実施を通して人材育成に取り組み、男女共同参画推進に貢献してきました。平成28年度からは、文部科学省科学技術人材育成費補助事業ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ「女性研究者の活躍推進を実現する “ 関東プラットフォーム”の創生と全国展開」に参画し、女性研究者が一層活躍できる環境の整備に取り組むとともに、2つの国際シンポジウム 「国際農業・食料・栄養研究における女性研究者の活躍推進(2017年)2」、「『水産』で活躍する女性研究者 ~ SDGsへの貢献(2018)3」を通じて、情報提供や活発な議論の場を提供してきました。今後も、研究や様々な取り組みを通じて、インクルーシビティの高い社会の実現に貢献していきます。

 

参考文献:

1 Global Inclusivity Report 2020

Web版:https://www.emeraldgrouppublishing.com/global-2020-inclusivity-report

PDF版:https://www.emeraldgrouppublishing.com/sites/default/files/2020-06/emer…

 

2 JIRCAS国際シンポジウム2017「国際農業・食料・栄養研究における女性研究者の活躍推進」

https://www.jircas.go.jp/ja/event/2017/intl_symp

 

3 JIRCAS国際シンポジウム2018「『水産』で活躍する女性研究者 ~ SDGsへの貢献」を開催

https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2018/r20190111

 

 

文責: 村中聡、生産環境・畜産領域

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