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世界銀行2018「気候変動が引き起こす人口移動のうねり [Groundswell: Preparing for Internal Climate Migration]」概要

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近年、国境を超えた移民問題の影響が国際的にクローズアップされてきたが、むしろ国内での人口移動の方が遥かに大きな規模であることが認識されるようになった。国内で人々が移動する理由は、経済・社会・政治・環境など多様であるが、最近は気候変動の要素が重要性を増しつつある。より多くの人が安定した暮らしを求めて、気候変動に脆弱な地域から、農業適地や就業機会に恵まれた地域へ移動している。人口移動の規模とパターンを理解することは、途上国の開発計画策定において重要な意義を持つ。本書は、世界の開発途上国の人口の55%を占めるサブサハラアフリカ・南アジア・ラテンアメリカの3地域において、2050年までに気候変動に起因する国内での人口移動の動向予測について報告する。気候変動と経済開発に適切な手段が講じられなければ、地域人口の2.8%に相当する1.43億人以上の人々が、水不足・作物の不作・海面の上昇・災害の頻発、等の理由によって、移動を余儀なくされると推計する。生活に不利な土地からの移動を強いられた人々が向かうのは、農業適地や経済機会に恵まれた都市である。例えばインドではバンガロールとチェンナイ周辺の南部高地、中米ではメキシコ・シティやグアテマラシティ周辺の中央台地、ケニアではナイロビである。こうした人口移動トレンドは、温暖化ガスの早急な削減や雇用機会・産業の多様化をもたらす経済開発が実現されなければ、人口流入地域において、インフラや社会保障システムの不足といった問題を引き起こす。本書では、とくに移動パターンがそれぞれ特徴的な東アフリカ(かつ、国レベルでの事例として、エチオピア)・南アジア(バングラデシュ)・中米地域(メキシコ)、を事例として、人口動態・社会経済・気候データを用い、人口移動の空間分析を行った。さらに、政策策定者の意思決定に寄与することを想定し、不確実性も加味した上で「悲観的現状維持ケース(高い温暖化ガス排出水準・不均衡な経済発展パターン)」・「包括的経済発展ケース(高い温暖化ガス排出水準・より平等な経済発展パターン)」・「気候変動対応ケース(温暖化ガス削減・平等な経済発展パターン)」の3つのシナリオを提示している。

より詳しい内容に関しては、以下のサイトを通じ報告書原文を参照のこと

“Rigaud, Kanta Kumari; de Sherbinin, Alex; Jones, Bryan; Bergmann, Jonas; Clement, Viviane; Ober, Kayly; Schewe, Jacob; Adamo, Susana; McCusker, Brent; Heuser, Silke; Midgley, Amelia. 2018. Groundswell : Preparing for Internal Climate Migration. World Bank, Washington, DC. © World Bank. https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/29461 License: CC BY 3.0 IGO”

URI http://hdl.handle.net/10986/29461

なお、概要に関する本翻訳は、世界銀行から公式に承認を受けたものではなく、翻訳上の誤りなどの責任は文責にある。(文責:研究コーディネーター  飯山みゆき)

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