[イネ創生] 環境共生型稲作技術の創生
2021-03-02
アジアを対象として、低投入・地域循環型で、環境と共生した新しい稲作技術(イネ品種、栽培法)を開発します。
アジアのイネ栽培では、化学肥料や農薬の多用による環境汚染、またそれら農業資材の価格上昇が問題となってきています。このため、化学肥料や農薬に出来るだけ頼ることなく、地域の生物資源を利用しながら、環境と調和しかつ共生できる稲作技術を開発していきます。このため、(1)病害抵抗性、(2)環境ストレス耐性、(3)イネの生産性を向上させた育種素材・品種を開発し、これら育種材料が最も適した栽培環境で十分に能力を発揮できるような栽培手法も検討します。
- 病害抵抗性では、世界的な重要病害であるいもち病に対して、国際的なネットワーク研究をもとに、抵抗性遺伝資源の探索、いもち病菌レースの分化解明、病菌レースの判別システムの開発を行いつつ、生物多様性を生かした防除技術としてのマルチライン品種の開発などを行います。
- 環境ストレス耐性では、リン酸欠乏、亜鉛欠乏、鉄毒耐性など熱帯地域での問題土壌や、環境汚染等により生じるオゾンに対する耐性について、適応性を向上させたイネ育種素材を開発します。
- また窒素利用効率を向上させ、高い生産性を確保できるイネ品種や栽培技術の開発研究を行います。
これら個々の育種素材や技術手法を、単独あるいは組み合わせていくことで、アジアに適した新しい稲作システムを創生、提案していきます。また、「アジア型稲作の改良」を通じてJIRCASのアフリカでの稲作振興プロジェクトにも貢献していきます。
(1) 国際的なネットワークと多様性を生かしたいもち病防除技術の開発
日本を含めた9か国の17の研究機関および大学、さらに国際研究機関としての国際稲研究所やアフリカ稲センターと連携を行い、国際的なネットワーク研究を展開しています。 このネットワーク研究では、いもち病菌レースやイネの抵抗性遺伝子を同定できる判別システムの構築と、いもち病菌レースやイネ遺伝資源の世界的な分布や多様性を解明します。このため、共通した判別品種の開発・普及、抵抗性評価基準の提案・普及を進めており、国際稲研究所とは判別品種群の開発、(独)農業生物資源研究所とはいもち病菌の病原性判定基準やレース命名法を作成しました。病原性判定基準については、12か国の言語[日本、英国、韓国、中国、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム、ラオス、スペイン、ポルトガル、フランス]に翻訳し配布しています。これら判別システムと、いもち病菌レースや抵抗性遺伝資源の情報をもとに、各国での新規抵抗性遺伝子の探索・同定、イネ品種の抵抗性の改良を行います。 具体的には、農薬をできるだけ少なくするため、様々ないもち病抵抗性遺伝子の遺伝子型を持った同質遺伝子系統群としての多系品種の開発や多くのいもち病菌系に対して効果のある圃場抵抗性遺伝子の利用など、生物学的多様性を生かした防除技術の開発を目指します。 ネットワーク研究で見つけられた情報、あるいは開発された材料(判別品種群、新規抵抗性遺伝子、多系品種)は、参画研究機関間で交換し、相互の研究を補完しあうようなことも目指します。
JIRCASの展開する国際的いもち病研究ネットワーク(2011年現在)
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(2) 適応性を改良した環境ストレス耐性イネの開発
熱帯地域での問題土壌では、リン酸欠乏、亜鉛欠乏、鉄毒などが重要な育種課題として残されています。また環境汚染等により生じるオゾンについても、これまでの先進国とともに発展途上国の工業化に伴いその被害が拡大してくると考えられます。
これら環境ストレスに対する耐性遺伝子の探索・同定、さらには効率的に育種を進めていくための分子生物学的解析により開発された選抜(DNA)マーカーの開発を進めていきます。また同時に、有用な育種素材の開発も進めます。
(3) 低投入でも高い生産性を確保できるイネ品種の開発
イネ品種そのものの窒素利用効率を向上させ、少ない肥料でも乾物生産や収量を確保できる新しいイネを開発します。このため、イネの草型[穂型]、根型などの改良とともに、窒素反応や利用に関する遺伝子の探索や育種素材開発を進めます。
またイネの品種改良とともに、それら育種素材が最も適応した栽培方法も検討します。