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1488. 熱帯の集約的稲作システムに潜む「パラドックス」:炭素は蓄積しても養分は枯渇する?
1488. 熱帯の集約的稲作システムに潜む「パラドックス」:炭素は蓄積しても養分は枯渇する?
熱帯アジアの稲作地帯では、増大する食料需要を支えるため、化学肥料を多投入し、年2~3回の作付けを行う集約的な水稲栽培が行われています。しかし、このような農業システムが長期的に土壌へどのような影響を与えるのかは、長年の懸念事項でした。このたび、国際農林水産業研究センター、国際稲研究所(IRRI)およびフィリピン稲研究所(PhilRice)との共同研究により、フィリピンで30年以上にわたり維持されてきた長期水稲栽培試験圃場の土壌を解析しました。その結果、化学肥料のみで連続して水田を管理し続けた熱帯の土壌において、「土壌肥沃度のパラドックス(矛盾)」が進行していることが明らかになりました。
・有機物は増えるが、利用できる窒素は減る
一般に、土壌有機物の蓄積は、土壌肥沃度を高め、作物生産を支える基盤であると広く認識されています。本研究でも、水を張った田んぼでは、酸素が少なく有機物の分解が抑えられるため、数十年にわたって土壌中の窒素と炭素の全量が徐々に増加することが分かりました。しかし、このように土壌有機物が蓄積しているにもかかわらず、イネが実際に利用できる可給態窒素の量は一貫して減少していました。つまり、土壌有機物の蓄積は必ずしも作物生産を支える地力の増加には結びついていなかったのです。
・リンの蓄積と、深刻なカリウムの枯渇
また、リンやカリウムなどの養分バランスについても重要な知見が得られました。リンは、イネによる吸収量を肥料の投入量が上回ると土壌に蓄積しますが、施肥管理を変えれば減少に転じるなど、比較的コントロールが可能であることが分かりました。
一方で、深刻なのがカリウムです。多収量の稲作を続けると、土壌中のカリウムが著しく減少し、欠乏の基準値を下回るレベルにまで枯渇していることが判明しました。これは、イネによってカリウムが多量に持ち出され、土壌の供給力が追いついていないことを示しています。
・持続可能な農業の未来へ向けて
本研究は、熱帯の集約的稲作システムを将来にわたって維持するためには、単に肥料を与え続けるだけでは不十分であることを強く示唆しています。今後は、土壌の窒素供給力を回復させるために一時的に水を張らない期間を設けるなどの水管理手法の導入や、土壌に残存するリンの戦略的な利用、そしてカリウム施肥の強化など、水と養分を統合的に管理する新しいアプローチが不可欠です。
(元論文)
Tomohiro Nishigaki, Miwa Arai, Takanori Okamoto, Olivyn Angeles, Wilfredo B. Collado, Kazuki Saito
Long-term soil carbon accumulation and nutrient depletion under intensive chemical fertilization in tropical rice systems
Field Crops Research, Volume 342, 2026
https://doi.org/10.1016/j.fcr.2026.110490
文責:生産環境・畜産領域 主任研究員 西垣智弘