1470. 世界の「水の塔」はどこから水を得ているのか?

 

1470. 世界の「水の塔」はどこから水を得ているのか? 

 

私たちの水資源を支える高山地域は、「水の塔(ウォータータワー)」と呼ばれています。これらの地域は河川の源流域として機能し、さらに雪氷として水を貯蔵することで、季節的な水供給の安定化に重要な役割を果たしています。しかし近年、地球温暖化により氷河の後退や積雪の減少が進み、水文バランスが大きく変化しています。その中で、降水の重要性はますます高まっていますが、その「水蒸気の起源(moisture source)」は十分に理解されていませんでした。

 

降水の約半分は「陸域蒸発」に由来する
Geophysical Research Letters誌で公表された研究は、大気水循環における水蒸気輸送を解析し、全球73の水の塔ユニット(WTUs)における水分供給源を定量化しました。その結果、降水の約50%が陸域蒸発に由来することが判明しました。これは「水分リサイクリング(moisture recycling)」と呼ばれるプロセスで、一度地表から蒸発した水が大気中を輸送され、再び降水として戻る現象です。特に内陸のWTUでは、海洋起源の水蒸気よりも陸域起源の寄与が大きいことが明らかになりました。

 

蒸散が支配的な役割を担う
陸域蒸発の内訳を見ると、最も重要なのが植物による蒸散です。研究では以下のような特徴が示されました。

  • 草地などの短植生 → 全球的に主要な水蒸気供給源
  • 森林蒸散 → アマゾン流域などで顕著
  • 裸地蒸発→ チベット高原内陸で重要

特に蒸散は、土壌水分と太陽放射に依存する単純な蒸発とは異なり、植物の根系やキャノピー構造の影響を受けるため、より安定した水蒸気供給を可能にします。

 

降水相(雨と雪)で異なる水蒸気起源
本研究では、降水を降雨(rainfall)と降雪(snowfall)に分けて解析しています。その結果、

  • 降雪 → 海洋蒸発の寄与が大きい
  • 降雨 → 陸域蒸散の寄与が大きい

これは、寒冷期には植生活動が低下し蒸散量が減少する一方で、海洋からの水蒸気輸送が相対的に重要になるためと考えられます。

 

水資源は「遠隔結合(teleconnection)」でつながっている
興味深いのは、水の供給が必ずしもその地域内で完結しない点です。大気中の水蒸気輸送により、

  • 上流域ではなく遠方の地域から水分が供給される
  • 下流域の土地利用変化が上流の降水に影響する

といった「大気的な流域(precipitationshed)」の概念が重要になります。例えば、アマゾンの森林伐採は、風下に位置するアンデス地域の降水量を減少させる可能性があります。

 

気候変動下での水の塔のレジリエンス
この研究は、高山域の水資源が単なる地形や降水量だけでなく、大気水循環や土地被覆(land cover)と密接に関係していることを示しました。今後は、

  • 植生変化(greening / deforestation)
  • 蒸発散の変化(evapotranspiration dynamics)
  • 大気循環の変動

といった要素を統合的に考慮することが、水資源の持続可能性を評価する上で不可欠になるでしょう。

 

(参考文献)
Bomei Zhang, Hongkai Gao, Lan Wang‐Erlandsson, Yan Li. 2026. Origins of Precipitation in the World's Water Towers. Geophysical Research Letters. https://doi.org/10.1029/2025GL118244

(文責:戦略統括室 飯山みゆき)
 

 

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