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1408. 農地保有規模ごとの土壌劣化対策の必要性
1408. 農地保有規模ごとの土壌劣化対策の必要性
土地は世界の農業食料システムの基盤であり、食料生産の95%以上を支えるとともに、地球上の生命を支える不可欠な生態系サービスを提供しています。しかし、有限な資源である土地は、都市の拡大、バイオ燃料の生産、そして所得増加と食生活の変化に伴う消費パターンの変化など、相反する需要から、かつてないほどの圧力に直面しています。
国連食糧農業機関(FAO)世界食糧農業白書(The State of Food and Agriculture 2025: SOFA)2025年版によると、農業の拡大は、何世紀にもわたって地球上の土地利用パターンを根本的に変えてきました。1961年以降、世界の農業生産量は土地拡大が限定的であるにもかかわらず、目覚ましい生産性向上によって4倍に増加しました。一方、21世紀以降、2001年から2023年の間、世界の農業面積は7,800万ヘクタール減少(-2%)しましたが、その内訳として、牧草地が1億5,100万ヘクタール減少したのに対し、耕作地面積は7,800万ヘクタール増加しました。これらの変化は、地域によって大きく異なります。サハラ以南アフリカでは、6,900万ヘクタールの耕作地拡大と7,200万ヘクタールの森林減少が見られました。一方、ラテンアメリカでは、2,500万ヘクタールの耕作地拡大と8,500万ヘクタールの森林伐採が見られました。
農業拡大は依然として世界の森林減少の主な要因であり、森林減少の約90%を占めています。今世紀において考慮すべきもう一つの重要な点は、毎年約360万ヘクタールの耕作地が放棄されており、土地の劣化がこれらの減少に大きく影響している可能性が高いことです。懸念すべきこととして、技術の進歩と効率性の向上を反映する全要素生産性の伸びは、2000年代以降低下しており、特に南半球の一部の国ではマイナス成長となっています。この低下は、潜在的な生産量と実際の生産量の継続的な格差(イールドギャップ)と相まって、将来の食料安全保障を脅かし、脆弱な生態系への農業拡大をさらに促す可能性があります。
農場規模のパターンは地域によって異なり、単純な集約化では語れません。過去20年間、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、中央アジアでは平均農場規模が増加した一方、アジアのほとんどの地域では減少し、サハラ以南アフリカでは縮小が続いています。
土地劣化と農業生産性の関係は不均一で、地域や所得水準によって大きく異なります。集約的農業システムを有する高所得国では、土地の劣化によるヘクタール当たりの生産損失は特に深刻ですが、合成肥料やその他の投入物の多投入によってしばしば隠蔽され、厄介なパラドックスを生み出します。肥料の多投入は、短期的には高い収量を維持する一方で、収穫逓減をもたらし、生産コストを増加させ、土壌の酸性化、養分不均衡、汚染を通じた土地の劣化を悪化させることが多く、集約的農業システムの長い歴史を持つ地域では土地放棄につながる可能性もあります。
対照的に、アフリカでは、極めて小規模な農場と土壌肥沃度の低さが相まって、農家は家計のニーズを満たすだけの生産も、土壌生産性の回復に投資することもできず、土壌劣化と食料不安の悪循環という貧困の罠に陥っています。サハラ以南アフリカの大部分では、土地劣化による収量損失は比較的低い傾向にあります。これは土壌がより健全だからではなく、投入物へのアクセス制限や機械化・信用・市場といった他の制約がイールドギャップの要因として支配的であるためです。収量向上の制約に対処することが、イールドギャップの解消に迅速な影響を与える可能性があります。
気候変動は、農場規模によって影響が異なり、これらの課題にさらなる複雑さを加えています。予測される温暖化シナリオでは、熱帯地域の小規模農家は、熱ストレス、干ばつ、そして異常降雨に不均衡にさらされることになります。中規模農家は複合的なストレス要因に最も大きくさらされる可能性があり、一方、温帯地域の大規模農家は霜の降りる日数の減少から恩恵を受ける可能性があります。
今後、政策は、小規模農家の生活を支えることと、大規模農業による地球規模の環境影響への対処との間の緊張関係をうまく乗り越えなければなりません。大規模農家は農地の大部分を支配しているため、持続可能な土地管理を大規模に実施する主要な責任を負っています。しかし、小規模農家の数が非常に多く、劣化と気候変動の両方に対して脆弱であるため、高所得国で見られるような持続不可能な集約化の経路を繰り返すことなく、生産性を向上させるための的を絞った介入が必要です。
土地の状態と農場構造毎に合わせた介入が重要です。土地劣化の原因と実態は均一ではありません。同じ農場内でも、区画ごとに状態が異なる場合があり、それぞれに応じた対応が必要です。政策、制度、そして投資を適切に組み合わせることで、農業を再生の力へと変革することができ、劣化した土地を再生し、食料安全保障と栄養を向上させ、農業食料システムの生態学的基盤を確保することができます。土地を生産資産としてだけでなく、人類と地球の幸福の礎として投資することで、より持続可能で公平な未来への道を切り開くことができます。
(参考文献)
FAO. 2025. The State of Food and Agriculture 2025 – Addressing land degradation across landholding scales. Rome. https://doi.org/10.4060/cd7067en
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)