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1007. 気候変動の経済的なコスト

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1007. 気候変動の経済的なコスト

 

本日は、気候変動が、気温変動や降雨パターンの変化を通じ、経済活動に影響を及ぼす可能性を指摘した、2つの論文を紹介します。


マクロ経済的な気候変動被害に関する世界予測は、長期的な国レベルでの年間気温に基づいて行われる傾向があります。これに対し、最近Nature誌に公表された論文(Kotz et al.2024)は、過去40年間の1600地点を超える地域からの観測に基づき、気温・降雨変動や異常値による各国の行政地域レベルでの被害予測をもとに、経済成長へのインパクトを予測しました。 

分析結果は、今後の排出削減の選択肢にかかわらず、これまで累積されてきた排出ゆえの温暖化により、世界経済は次の26年間のうちに19%の所得減少をこうむる可能性を予測しました。この経済被害は、同期間中に地球温暖化を2℃以下に抑制するための緩和コストを6倍超えており、その後の被害規模は排出削減規模によって大きく差が出ていくと予測されています。

論文(Kotz et al.2024)は、予測される被害は主に平均気温の変化によるもので、地域間で大きな差異が予測されています。高緯度地域を除く全地域で被害が予測されており、とりわけ排出歴が浅く現在も低所得にとどまる低緯度地域において最も被害が大きいと見込まれています。これは、温暖化が世界平均よりも早く進行すると予測される高緯度地域に対し、気温変動に対する経済の適応性が低い低緯度地域の脆弱性を反映した結果となります。

論文(Kotz et al.2024)は、今世紀半ばまでの温暖化の被害は、歴史的に累積されてきた温室効果ガス排出が原因であり、短期間に実施される緩和策にかかわらず起こりうると予測しています。気候変動の被害が見込まれる地理的分布は、温暖化の原因とは縁がなく、社会経済的に脆弱な人々が受ける、という社会正義の問題を伴っています。論文は、気候変動緩和の効果がでるのに時間差があるため、当面は不可避な被害に対する適応策が重要となる一方、今世紀半ば以降の経済被害は温室効果排出コミットメント強化によって大きく緩和することが可能であるとします。


一方、Nature Climate Change誌に掲載された論文(Waidelich et al. 2024)は、気温上昇に加え、降雨・気温変動・異常気象の経済被害インパクトの評価を試みました。3度の気温上昇シナリオのもと、GDP損失は10%に及ぶとし、とりわけ、低緯度の貧困国で最大の被害(~17%)を予測しました。 年間気温上昇による被害に加え、気温変動や異常気象の追加的被害は低緯度では小さくなると予測されたものの、気温の用量反応関数(dose–response function:生物 に対して 高温や刺激・ストレスなどの化学物質 や物理的作用を与えたときに、物質の用量・ 濃度 や作用強度と生物の反応との間に見られる関係)を推計し変動や異常値を考慮した場合、世界の経済喪失は2%ほど上昇し、確率的には極めて低いものの発生すると巨大な経済損失をもたらすリスク(economic tail risks)を上昇させます。これら分析の結果は、気候変動のインパクトをより正確に理解するために、地域特有のリスク評価とさらなる気候変数をモデルに取り入れる必要性を示唆します。

 


(参考文献)

Kotz, M., Levermann, A. & Wenz, L. The economic commitment of climate change. Nature 628, 551–557 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07219-0

Waidelich, P., Batibeniz, F., Rising, J. et al. Climate damage projections beyond annual temperature. Nat. Clim. Chang. (2024). https://doi.org/10.1038/s41558-024-01990-8

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 


 

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