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996. 海氷融解の地球規模なインパクト

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996. 海氷融解の地球規模なインパクト

 

海氷は海洋と大気のバッファーとして機能しています。海水はその形成の際に真水に近くなり、塩分が高くて冷たく重い海水を吐き出すことで、地球規模の海洋大循環を引き起こしているとされ、地球の気候の安定化に貢献しています。また、海氷は白いため太陽光を反射しやすく、地球を冷却する役割を果たしていますが、いったん溶けだすと、黒い水面が太陽光エネルギーを吸収し、海洋・大気を温める効果を持ちます。

南極大陸の氷は1年のサイクルで増加と融解を繰り返し、南半球の夏に面積は最小になります。NASAによると、2024年は2月20日に年内最小面積を記録、衛星観測上でいうと過去2番目に小さい値であり、長期的な海氷の縮小傾向を反映しました。

歴史的に、南極大陸を取り巻く海氷量は、年ごとに大きく変動する一方、10年単位の長期的な平均値では比較的安定していました。しかし、近年、南極大陸の海氷の融解が急激に進んでおり、科学者の間で、気候変動により長期的に安定したトレンドがシフトしたのではないか、との懸念が高まっています。南極の海氷は、過去7年間、最少記録を3度更新しました。2024年2月20日に記録した最小面積は、1981-2010年の夏の終わりの平均値よりも30%低く、この差はテキサス州の面積に相当します。

地球の反対側の北極海では、冬の間の海氷最大面積は46年間にわたる減少傾向と整合的であり、今年3月14日に観測された北極海の冬季の海氷最大面積は1979年以来アラスカに相当する面積を失ったことになります。

アイスアルベドフィードバックにより、既に北極海では世界平均よりも大きな気温変化が観察されています。地球温暖化の元、北極海の夏の海氷面積はこの40年間で半減していますが、海氷の減少によってさらに加速していくことが予想され、近い将来変化に歯止めが利かなくなる臨界点に達する可能性が指摘されています。北極域と中緯度地域の大気交換が活発になることで、中高緯度地域での厳冬や豪雨などの異常気象が増加する可能性も指摘されています。ある研究によると、北極の温暖化と大気の変動が、温かい北極・寒い東アジアの遠隔相関(“warm Arctic, cold East Asia” (WACE) teleconnection)をもたらすメカニズムとなっているそうです。

北極とは異なり、他の大陸と隔離され、これまで気候変動の影響も小さいと報告されてきた南極周辺で近年観察される状況は、南半球でもアイスアルベドフィードバックが迫っていることを予感させます。南極の周りは最も海氷生成が盛んな海域で、地球規模の海の大循環の起点になっているそうです。南極における海氷融解の兆候は、海洋大循環への影響を通じて、地球規模で気候変動を加速することが懸念されます。

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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