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882. リンの肥培管理を通じて、健康機能性に優れた黒米を生産する

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882. リンの肥培管理を通じて、健康機能性に優れた黒米を生産する

 

コメを主食とするラオスにおいて、イネは最も重要な作物です。90 年代にコメ自給を達成したラオスは、国策としてコメの増産と輸出を経済成長の柱の1つとして位置付けています。しかし、輸送コストがかかる内陸国であり、かつ周辺に中国、タイ、ベトナムのコメ生産大国が存在しています。ラオス米の市場拡大には、付加価値が高く、他国との差別化が可能なコメの生産と輸出が不可欠です。そこで国際農研では、ラオスの黒米に着目しました。

中国や東南アジアでは古くから、健康促進を目的として黒米を食す習慣があり、現地では高値で取引されています。黒米は果皮にアントシアニンなどの様々な抗酸化物質を蓄積し、多岐に渡る薬理効果を有することが報告されています。抗酸化物質の蓄積は、ストレスに対する植物の防御機構です。そのため、圃場が十分に整備されていないラオスでは、イネは乾燥や貧栄養などのストレスを受けやすいため、抗酸化物質が高蓄積する、健康機能性に優れた黒米を生産することができます。しかし一方、収量はどうしても低くなってしまいます。

熱帯地域の土壌では、リンの不足がイネの生産性を律速していることがよく知られています。不足しているリンを多量に施肥すれば、黒米の収量は向上しますが、健康機能性が低下することが予想されます。そこで国際農研では、土壌中のリンの多寡が、黒米の生産性と機能性に及ぼす影響を検証しました。2023年にFrontiers in Sustainable Food Systemsに掲載された論文「Optimizing phosphorus management to increase grain yield and nutritional quality while reducing phytic acid concentration in black rice (Oryza sativa L)(リン肥培管理の最適化は黒米の収量と栄養品質を向上させるだけでなく、フィチン酸含量を抑制することができる)」では、リン欠乏土壌でもリン施肥量の最適化によって、収量を高く維持しつつ、かつ機能性に優れた黒米を生産することができることを明らかにしました。本研究の結果は、土壌に応じたリン肥培管理を導入することにより、黒米の生産性と機能性の両立が可能であることを示唆しており、途上国の黒米生産者の生計向上にとって重要な知見になると考えられます。

 

(参考文献)
Aung Zaw Oo et al. (2023) Optimizing phosphorus management to increase grain yield and nutritional quality while reducing phytic acid concentration in black rice (Oryza sativa L).  Front. Sustain. Food Syst. 7:1200453. https://doi.org/10.3389/fsufs.2023.1200453

 

(文責:生産環境・畜産領域 浅井英利・Aung Zaw Oo)

 

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