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587. 世界の小麦供給と食料安全保障安定化

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587. 世界の小麦供給と食料安全保障安定化

ウクライナ・ロシア戦争は、数年間に及ばずとも、今後数カ月は世界の食料安全保障に甚大な影響を及ぼすことが想定されます。COVID-19と気候変動のインパクトの影響も踏まえ、極めて密接につながりあった今日のフードシステムの強靭性を高める方向を目指し、重層的な手段を講じる必要があります。

7月、小麦・トウモロコシの国際研究を主導するCIMMYTの研究者らは、Nature Food誌にて、世界の小麦供給と食料安全保障を安定化させる短期・長期的手段を提案しました。

現在の危機を回避するための短期的手段として、需要に見合う生産奨励、穀物へのアクセス確保、ブレンディング選択肢の検討、が提案されました。著者らは、生産奨励に関して、多くの地域で生産性の改善余地があることを指摘しました。例えば東欧では、ウクライナなどの輸出国も含め、イールドギャップ*は50%もあり、水制約条件下でのイールドギャップを20%まで削減できれば7000万トン生産を増やす余地があるとのことです。このためには、農学・育種・および時限付き対投入財補助金等の政策を通じ、現在、潜在性を下回る生産性しか達成していない環境での収量向上を目指す必要があるとします。輸入肥料に依存している最貧国では、史上最高値の肥料価格に見舞われているところですが、持続的農業集約化のための統合的土壌肥沃度管理策や統合的病害虫管理など、その地域の社会経済的コンテクストに応じて強靭な生産システムの構築に貢献する方策が求められます。他方、もともと生産性の高いカナダ・アメリカ・欧州では、小麦作付面積の奨励のための経済的誘引が世界的な供給逼迫を緩和することが期待されるとします。

論文は、中期的に小麦供給の強靭性を高めうる生産地拡大のための技術的サポートや、長期的にアグリフードシステム自身の強靭性を強化するための戦略も提案しています。

 

**イールドギャップ - 最適な品種・栽培管理法を採択した場合を想定した収量、に対し、農家圃場環境などで実際に観察される収量、との差・乖離を指し、農業技術・栽培方法の改良を通じて収量向上改善の余地があることを意味する。

 

(参考文献)
Bentley, A.R., Donovan, J., Sonder, K. et al. Near- to long-term measures to stabilize global wheat supplies and food security. Nat Food 3, 483–486 (2022). https://doi.org/10.1038/s43016-022-00559-y

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

 

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