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359. OECD-FAO農業アウトルック報告書出版記念イベント Q&A

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359. OECD-FAO農業アウトルック報告書出版記念イベント Q&A

2021年7月14日に開催され、Pick Up 341でも紹介した「OECD-FAO農業アウトルック報告書出版記念イベント」では、アウトルックの前提条件や結果について、FAOのHolger Mattheyシニアエコノミストと、OECDのHubertus Gayシニア農業政策分析官に加え、日本のアウトルック研究専門家である農林水産政策研究所の古橋元上席主任研究官と、国際農研の古家淳領域長に質問が寄せられました。ここでは、頂いた質問への回答を紹介します。

● 前提条件

Q: アウトルックで想定しているのは、農薬等の化学物質に依存することが前提の農業でしょうか。

A: 本報告書では一国内の全ての生産システムが含まれた国レベルのデータに基づき生産予測を行っており、個別の生産システムは考慮されていません。多様な生産システムは国レベルの値に平均化され、生産性のトレンドの予測値に反映されます。(Mr. Matthey)

Q: アウトルックのデータからは、炭素と窒素の関係をより詳しく見ることができますか。

A: ご質問頂いた「炭素と窒素の関係」の意味を正しく理解しているか分かりませんが、物理的な施肥量は加味していません。排出量推計においては、二酸化炭素換算のみを行っています。(Mr. Matthey)

● 生産

Q: 2030年までの農場規模はどうなる見通しですか。

A: 農地規模は明示的には考慮されていません。生産システム同様、農地規模の動向はモデルの生産性の値に反映されていると考えています。(Mr. Matthey)

Q: 作物生産性向上の要因についてお尋ねします。今回予測された土地利用や多作地域には、温暖化に伴う作物栽培適地の極方向へのシフトや年間収穫回数の増加といった、気候変動の影響が加味されていますか。

A: アウトルックではこのような評価のためのデータは用いられていませんが、専門家との意見交換を通して関連する情報を得ており、意見の一致が得られる部分については今後反映させていければと考えています。(Mr. Matthey)

● 温室効果ガス排出

Q: 農業由来の炭素排出量の10年間で4%増加という見通しの値は極めて大きいです。この80%が畜産業由来とのことですが、水田由来の炭素排出量はどの程度ですか。

A: 今後10年間、水稲生産が農業由来排出量の伸びに占める割合は1%で、農業由来排出量全体への寄与はやや低下するものの、約10%を維持すると予測されています。(Mr. Matthey)

Q: 近年の菜食主義の傾向が世界の食料バランスと農業由来の温室効果ガス排出に与える影響はありますでしょうか。

A: 菜食主義者の数は限られており増加は緩やかであるため、その影響は世界の統計からは確認できません。(Mr. Matthey)

Q: 気候変動のさらなる深刻化を食い止めるために、「ヴィーガン」など菜食志向への転向が求められると思われます。一方で、本日の内容では今後も肉の需要と供給は伸び続けるという結果でした。この点に関して、ヴィーガンの重要性や、アニマルウェルフェアを考慮したオーガニックな畜産への転向の可能性など、コメントや付随するデータなどを示していただけますと幸いです。

A: アウトルックは、世界の農業市場の中期的な見通しと課題について、偏りのない中立的なシナリオを提供するものです。ここでの予測(projection)とは、将来予測/予報(forecast)というよりも、マクロ経済や農業、貿易政策、気象条件、長期的な生産性の動向、国際市場動向についての具体的な仮定に基づいた妥当性が高いシナリオであり、将来を見据えた政策分析・計画の参考になることを目的としたものです。(Mr. Matthey)

● 貿易

Q: 近東と北アフリカ地域では、摂取カロリーにおける輸入割合が突出して高いですが、その理由と解決策についてのお考えをお聞かせください。 

A: 自然環境や気象等の条件により地域によって生産できる食料は限られているためです。食料確保を国際貿易システムの中で考えていくことが重要です。(Dr. Gay)

● 不確実性

Q: 食糧価格は、今後、AIをはじめとした技術の発展により生産性が向上すると思われますが、そのような将来の技術的展望を見込んだ予測となっているのでしょうか。

A: このようなブレイクスルーは経済モデルでは適切に表現できないため、我々は専門家の判断に頼って分析結果を調整しています。このような方法は保守的なものであり、予測期間中の構造変化は想定されていません。(Dr. Gay)

Q: 今後、食料生産の増大を、大幅な生産性向上に期待されているところが興味深いです。とりわけアフリカのような開発途上国で大幅な農業生産性向上を達成するには、国際協力分野での研究投資の増大が重要となると考えますが、報告書のご担当者として、どのような提言がカギとなりますでしょうか。 

A: 途上国の生産性を大幅に向上させるためには、知識の移転と訓練が必要であり、これはサハラ以南のアフリカ全体で改善が見られています。最も重要なことは、農民が支援を受けられる環境を整えることです。その上で、農民の需要に基づき、技術に対してさらなる投資を行うことが必要です。(Dr. Gay)

Q: 生産性向上のための投資には研究開発も含まれますが、栽培技術改善の効果と比較し、品種改良がどの程度の単収向上をもたらすかを評価する方法はありますか。

A: 両方とも収量増加に貢献している上に、新しい育種技術には農学的手法の改善が必要であったり、農学的手法の改善のためには新品種が必要といったように、これらの改善はしばしば並行して行われる必要があるため、収量増加への寄与を区別することは困難です。(Dr. Gay)

Q: 地球温暖化だけでなく、耕地の劣化、水質及び大気汚染への見解をお聞かせください。これらの問題は国際的に注目される必要があります。

A: これらはいずれもOECD-FAO農業見通しの消費、生産、貿易、及び価格の予測において考慮される重要な問題です。しかし、それぞれの要因が2030年までの農産品市場に与える具体的な影響を定量的に示すことはできません。(Dr. Gay)

● その他

Q: 飢餓撲滅という目標達成の難しさや、飢餓以外の太りすぎのような栄養に関する問題について触れていますが、これらの問題解決のため、今後注力すべきことはありますか。

A: ほとんどの場合、食料の入手可能性は大きな問題ではありません。しかし、食料へのアクセスと消費者による選択は改善される必要があります。消費者による選択に関しては、教育と情報が重要な役割を果たします。アクセスについてはより複雑ですが、ほとんどの場合、収入と価格が直接的または間接的に消費者の選択の余地を制限しています。(Dr. Gay)

Q: OECD-FAOの報告書は毎年公表されていますが、今年の見通し結果について、昨年のものとどういう違いがあるかご教示ください。

A: 報告書の囲み記事では、以下のような新たな問題に焦点が当てられています:果物と野菜の消費の決定要因、アフリカにおける公的支出と農業生産性の成長可能性、貿易と持続可能な開発目標(SDGs)、従来のアウトルックを超えて(農業・食料システム変革の評価)。また、第1章では予測値を報告するよりも、その要因や意味合いをより詳しく説明することを目指しました。このような努力は継続的に行われており、近年進展を見せています。(Dr. Gay)

● コメンテーターへの質問

Q: 1990年代後半、レスター・ブラウンの「だれが中国を養うのか」が巻き起こした食料危機に関する大論争に触れ、質問したいと思います。本日ご紹介されたように、OECDとFAOは食料問題を解析するための豊富な一次データを提供しています。「データを用いて予測」という観点から、ブラウンの予測は当たらない、もしくは、予測した数値が大幅に外れている、と考えてもいいでしょうか。この辺(21世紀に食料危機がやってくる;その予測と検証等)、ご見解をお伺いしたいと思います。

A: ご指摘の通り、中国自身が可能な限り中国を養うことが前提となります。ただし、レスター・ブラウン博士の「だれが中国を養うのか」は世界だけでなく中国自身に警鐘を鳴らす一定の役割を果たしたと考えられます。同書は、中国の畜産飼料の需要量の将来推計がやや大味だったことに加えて、価格の効果によって米国等の輸出国でも増産が促されることや大豆かすの飼料用用途について十分に考慮されていなかったことも、大味になってしまった要因とも考えられます。同書が予測した未来(将来像の一つである)を避けるために、中国自身が対策を立てたことと、さらに穀物等市場において価格によって調整が行われたこと等があり、同書のやや過大な未来像を避けることができたとも考えられます。また、中国が1990年代以降、高い経済成長を続けていく中で、穀物等の輸入量の増加は、将来に想定される過大なリスクの一つだったと考えることもできます。ゆえに、世界的な不確実性下におかれている現在、それらのリスクを想定し検討するために、数量ベースの計量モデルによる将来の食料見通しが今後も重要になります。(古橋元博士)

Q: コロナ禍でのコールドチェーンへの影響にはどのようなものがあるのでしょうか?詳しく教えていただけると幸いです。

A: COVID-19の広がりが消費者の所得を減少させた場合、肉のような冷蔵食品の所得弾力性が比較的高いため、その需要は減少します。このような場合、倉庫や貨物用の冷蔵庫のキャパシティが過剰になります。キャパシティが過剰になると、コールドチェーンの管理費が上昇し、冷蔵食品の価格が上昇すると考えられます。また、このようなキャパシティの最適化は、頻繁なロックダウンや緊急事態宣言の発令により困難となります。COVID-19が拡大する状況下でも、コールドチェーン関連企業は食料供給を維持するため加工工場の労働者やトラックの運転手を雇用し続けなければなりません。また、これらの企業は労働者の衛生教育のためにも費用を割かなければなりません。(古家淳博士)

(文責:社会科学領域 草野 栄一)

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