[熱帯作物開発] 熱帯性畑作物遺伝資源の多様性評価および利用技術の開発

関連プログラム
食料安定生産

2021-03-09

プロジェクト目標

サトウキビ等の熱帯性畑作物の生産性の向上および利用の多様化を図るため、近縁野生種を含む広範な遺伝資源の多様性を評価し、育種素材の作出につなげる技術を開発する。

プロジェクトの理念および背景

アフリカ・アジア等の開発途上地域において依然として深刻な状況にある栄養不良人口・飢餓人口の削減は、「国連ミレニアム開発目標」(MDG)における中心的な課題である。とくに、農業生産に不利な環境下における食料の増産と安定的な供給は、人類が共有しなければならない地球規模の課題である。JIRCASは、熱帯・亜熱帯地域の農業生産において、不良または不安定な環境下での生産性の向上および生産の安定化のための技術開発研究を現地の研究機関、国際研究機関等と共同で実施している。
 アフリカにおけるコメ増産計画実現のための総合的技術開発や、ダイズ等の主要畑作物の生産阻害要因に対する生産性の確保・向上を目指した育種素材開発など、国際的に市場価値が高い主要な穀物や豆類の研究開発は、開発途上国のみならず我が国を含めた世界全体の食料安全保障に資することを目的としている。
 これに対して、開発途上地域に多く栽培されている種々の熱帯性畑作物は地域性が高く、それぞれの域内における自給的な生産・消費に留まる事が多い。しかしながら、これらの熱帯性畑作物は、食用・飼料・加工食品・工業原材料として極めて多面的な役割を果たすとともに、限界環境への順応性が高く、農業の多様性の維持、地域レベルの食料安全保障および小規模農家の現金収入獲得などに貢献している。このような熱帯性畑作物の生産性の向上および利用の多様化を目的とした研究・技術開発は、地域農業の活性化のみならず延いては国際的な食料・エネルギー需給の安定化につながる。
 本プロジェクトではサトウキビヤムササゲおよび熱帯果樹に着目し、各作物の特性を活かしながら、その生産性の向上および利用の多様化を図るための研究開発を行う。とくに近縁野生種も含めた広範な遺伝資源の多様性を評価し、育種素材の作出につなげる技術を開発する。

具体的な活動内容

世界的な人口の増加、新興国の経済発展等に伴う食料およびエネルギーの需要が急増する一方、優良農地は減少しており、バイオ燃料と食料生産との競合等の問題が指摘されている。これらの問題の緩和策として、既存の食料作物が少収となる不良環境地域での食料・エネルギーの同時的増産が有効である。サトウキビやエリアンサスを含むSaccharum complex遺伝資源には、旱魃や低肥沃度土壌等の不良環境に適応性の高い素材がある。これら遺伝資源を利用するための育種技術を開発し、不良環境地域において糖質および繊維質の安定多収生産が可能な高バイオマス量資源作物を作出し、優良系統については品種化を目指す。

 ヤムはヤマノイモ(Dioscorea)属作物の総称で、世界のヤムの生産量(約4,800万トン)の96%はアフリカで生産されている。伝統的主食作物として重要であると同時に換金作物としての位置づけが高いため、近年、栽培面積が広がりつつある。一方で、地域性が高い作物であることから、研究、品種改良および栽培利用技術の開発が他の作物に比べて大きく遅れている。本課題では、基盤的な遺伝・育種研究を進め、ヤムの品種改良に必要とされる科学的な知見や情報を整備する。さらにDNAマーカーや連鎖地図等を開発し、ヤム育種における有望素材選抜の効率化を目指す。

ヤムは、西アフリカにおいては、重要な主食作物であると同時に、換金作物としての位置づけも高い。(ナイジェリア国ウロミの農家圃場)

ヤム専用の市場では、種や品種を識別した取引が行われており、伝統作物ならではの生産者、消費者のこだわりがある。(ナイジェリア国イバダンのヤム市場)

アフリカの伝統作物であるササゲ(Vigna unguiculataは、世界の約70%を西アフリカで産し、栽培面積は約800万ヘクタールに及ぶ。アフリカにおけるササゲの育種目標は、収量性、耐乾性、病虫害耐性に置かれてきたが、最近では、これらの形質に加え、品質改善および付加価値化の必要性が提唱されている。本課題では、高栄養価(タンパク質、鉄・亜鉛等の微量要素)および消費者の嗜好に適した形質を備える有用育種素材を選定する。また、異なった環境や栽培条件が子実成分、収量、品質要因に与える影響を評価し、アフリカにおけるササゲの品質向上と付加価値化のための育種の可能性および戦略を提示する。

収穫間近のササゲ(ナイジェリア国カノ)

ササゲは西アフリカの半乾燥地域の重要な栄養源、収入源として重要な作物である。種皮の色、実の大きさ、食味などが生産者価格に大きく影響する。(ナイジェリア国カノの市場)

 JIRCAS熱帯・島嶼研究拠点では、亜熱帯気候に属する地の利を生かし、豊富な熱帯果樹遺伝資源を維持・管理している。本課題では、これらの遺伝資源を、農業生産や育種素材開発のために有効に利用することを目的とし、遺伝資源の特性評価、DNAマーカーによる多様性解析、集積した情報のデータベース化等、熱帯果樹遺伝資源の管理および有効利用を促進するための基盤整備手法の体系化を行う。体系化した手法や情報は、同様な問題を抱える東南アジア諸国における熱帯果樹遺伝資源の管理・保存・評価・利用体系の改善、および熱帯果樹研究の促進に資する。

JIRCAS 熱帯・島嶼研究拠点(石垣市)では、マンゴー、チェリモヤ、グァバ、アセロラ、ドラゴンフルーツ、パッションフルーツなどの熱帯果樹遺伝資源を保存している。

形、色、食味、香りなど、異なったマンゴー品種にみられる多様性。

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