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1198. 長期的な1.5℃温暖化期間への突入可能性

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1198. 長期的な1.5℃温暖化期間への突入可能性

 

2023年、世界の平均地表気温は産業革命前の水準より1.43℃(1.32~1.53℃)上昇しました。これは人為的な温暖化の最良推定値である1.31℃(1.1~1.7℃)を上回り、エルニーニョ現象の影響を含む自然変動が2023年の観測値に寄与したことを示しています。翌年の2024年は世界的に観測上最も暖かい年となり、世界気温を追跡している複数の国際機関により、1.5℃を超えた最初の暦年として発表されました。データセット間で多少の不確実性はあるものの、平均すると、地球の表面気温は2024年に1.55°C上昇したというコンセンサスが示されています。

1.5°Cを1年間超えたからといって、長期的な気温がパリ協定で言及されているレベルに達したということにはなりません。パリ協定の気温目標は、産業革命以前の基準を上回る20年間の平均として測定されます。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、人為的な地球温暖化を判断する際、観測された記録における自然変動の影響を考慮するため、20 年間のスパンで地球温暖化を評価することし、評価基準として1.5 °C の温暖化レベルで発生しうる気候リスクを詳細に論じています。

したがって、2024年は産業革命以前の水準と比較して1.5°Cを超える最初の年として発表されましたが、実際に20年間の平均気温として推移していくのかどうかは不明です。Nature Climate Change誌の論説は、複数の観測データセット、気候モデルシミュレーション、および理想的な条件での実験分析に基づき、非常に野心的な気候緩和策を講じなければ、1.5°Cを超えた最初の年にとどまらず、20年間平均で1.5°Cを超える期間に突入する可能性に言及しました。

特定の温暖化レベルに達した最初の 1 年が、実際その温暖化レベルに達する 20 年間に突入したことに該当するかどうかは、温暖化傾向と地球平均気温の時系列での変動性の相互作用によって決まるとされます。一般に、長期的な温暖化傾向が弱い場合、最初の年は、特定の温暖化レベルでの 20 年間が始まる前に、自然な気温変動によって発生することがよくあります。逆に、強い温暖化傾向の下では、1 年間の温暖な年が通常 20 年間の温暖化レベル期間内に収まる傾向があります。

過去 10 年間に観測された 0.026 °C/年 という強い温暖化傾向が継続すると、1.5 °C に達した最初の単年が 1.5 °C での最初の 20 年間の期間内に入ることがほぼ確実になります。それでも、近い将来に厳格な排出削減を実施すれば、今後 20 年間の温暖化率を大幅に引き下げることができます。現在観測されている気温の傾向と変動性の下で、1.5 °C での最初の年が発生すると仮定すると、この確率を約 50% に下げるには、温暖化傾向を約 0.005 °C/年に下げる必要があることが推定されます。これは厳格な緩和努力によってのみ達成できます。

論文著者らは、温暖化レベルの閾値を予測するための早期警告を提供し、適切な緩和および適応策を早急に講じる必要性を訴えます。特に、厳格に短期的な緩和策を実施することにより、1.5°Cを超える最初の1年が過ぎた直後でも、1.5°Cを超える温暖化レベルのリスクを大幅に削減できる可能性があります。また、1.5°Cを超えた場合、高い確率で温暖化を2°C未満に効果的に抑制できるのは、短期的に急速な緩和策を実施することだけです。論文著者らは、1.5°Cを超えた年に絶望するのではなく、行動を起こす契機ととらえるべきだと訴えました。


(参考文献)
Bevacqua, E., Schleussner, CF. & Zscheischler, J. A year above 1.5 °C signals that Earth is most probably within the 20-year period that will reach the Paris Agreement limit. Nat. Clim. Chang. (2025). https://doi.org/10.1038/s41558-025-02246-9
 

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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