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451. 亜熱帯果樹の結実の安定化に関する研究

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451. 亜熱帯果樹の結実の安定化に関する研究

わが国においても、消費者の多様化や温暖化への対応策として熱帯果樹の関心が高まっています。マンゴー・パッションフルーツ・アボカドなどはごく普通の果実として店頭に並ぶようになりました。日本だけでなく、欧米・オーストラリアなどの世界のさまざまな亜熱帯・温帯地域でも熱帯・亜熱帯果樹の需要は高く、日持ちがせず輸送が困難なものが多いため、さまざまな樹種の導入栽培が試みられてきました。しかし、原産地と環境が大きく異なるため新規導入地では結実が安定しにくく、市場の拡大や普及の妨げになっています。生産を安定させ普及につなげるには、樹種ごとに開花結実を阻害している環境(温度・湿度など)条件の解明と栽培地に適した(美味しい・作りやすいなど)品種の選択をすることが重要になります。熱帯果樹の安定生産につながるこれらの情報や 技術は、国際農研が対象としている熱帯・亜熱帯地域においても必要です。 

2021年、熱帯農業研究誌に掲載された「亜熱帯果樹の結実の安定化に関する研究 とくにチェリモヤおよびレイシについて」(松田,2021)は、熱帯原産の果樹を日本など亜熱帯・暖温帯地域で導入栽培するときに起こる結実不良という問題に対する解決策 を提起し、学会賞奨励賞に選ばれました。特別講演要旨は、冷涼な熱帯高地原産のチェリモヤでは、温度に着目してその原因となる温度域を特定することで結実を安定させる温度管理方法を提言し、雌雄の開花時期がずれるため受粉不足が起こりやすいレイシでは、受粉不足を解消するための人工受粉に使う花粉の採集・保蔵方法を確立するとともに、温帯の環境で栽培した果実品質や自家不和合性といった品種情報を蓄積した京都大学での一連の研究成果をまとめています。

温度に敏感なチェリモヤにおいて、開花結実を安定させるための開花期間中の温度管理方法が開葯から受精までのさまざまなステージについて明らかになりました。また、レイシでは温帯の施設栽培で果実品質が優れる品種・自家和合性が優れる品種・単為結果性を持つ品種が明らかになるとともに、受粉不足を補うための人工受粉に関する技術開発が大きく進捗しました。こうした栽培生理に関する情報や栽培技術の開発は、日本をはじめとする熱帯果樹の新規導入地の生産現場に貢献するだけでなく、既存の産地である熱帯地域においても結実安定化や収量予測など栽培管理に活用されることが期待できます。

チェリモヤ・レイシ以外にも結実安定化が求められている熱帯・亜熱帯果樹はたくさんあります。国際農研熱帯・島嶼研究拠点(石垣島)では現在、これらの研究成果を他の樹種にも展開し 、マンゴーの開花調整技術やパッションフルーツの高温への生理反応の詳細について圃場試験を実施して、結実安定化につながる情報を蓄積しています。今後も生産安定化と普及につながる情報・技術を石垣島から国内を含め熱帯・亜熱帯地域に向けて発信していきます。

(参考文献)

松田大志(2021)亜熱帯果樹の結実の安定化に関する研究 とくにチェリモヤおよびレイシについて.熱帯農業研究第14巻2号:111–114.

(文責:熱帯・島嶼研究拠点  松田大志)

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