出張者
国際土壌会議(ISC2015)参加報告

生産環境・畜産領域長 飛田 哲
2015年が国際土壌年であることを記念し、2015年8月18日〜21日にタイ国Phetchaburi県にあるThe Regent Cha Am Beach Resortにて、国際土壌会議(International Soil Conference, ISC2015)が開催されました。主催はタイ国の土地開発局(Land Development Department: LDD)、共催はIUSS、FAO、アジア開発銀行(ADB)、フランスの研究機関であるIRD、タイ国土壌肥料学会、同土壌・水管理学会、ならびにタイ国のカセサート大学です。主催者発表で、27カ国から450人が参加しました。
ISC2015開会セッションの模様
本会議のメインテーマは”Sustainable Uses of Soil in Harmony with Food Security”です。4つの基調講演を含む全113の発表が行われ、基調講演を除く発表は、下記の5つのセッションに分けて行われました。
- Soil Information for Supporting Sustainable Uses and Management
- Integrated Soil Management and Conservation for Food Security
- Role of Soil Ecology in Relation to Climate Change and Food Security
- Innovative Techniques and Tools for Soil Resources Inventories and Appropriate Management
- Public Participation, Networking and Policy Implementation on Land Management
以下に、特に興味深く感じた発表の概要を紹介します。
- Soil information to support food security and ecosystem services:フランス国立農学研究所(INRA)のChristian Walter氏の基調講演です。土壌のエコシステム対するサービス機能を整理し、それを管理するための土壌情報システムとして、国際的なネットワークによるDigital Soil Mappingにメタ情報を落とす試みが紹介されました。本システムは、オーストラリア大陸と本国フランスで試作されています。現在は、物理情報中心ですが、今後は化学性(肥沃度含む)や土壌生物の情報も入れる予定です。フランスの例では、畜産の影響で、土壌中のリンがだんだん増えていることが報告されました。
- A review of soil and land management interventions including policies and public participations: Lessons from the ground:ブータンの政策立案に関わるChencho Norbu氏の講演です。農業開発に係る国際機関と農家との関わり合いについてのお話で、同国は、これから化学肥料を導入していこうという段階であり、アフリカにも共通する課題を抱えている、という印象を受けました。
- Plant-Fungi-Soil interaction in a long-term plant manipulation experiment:中国雲南省の昆明植物研究所のShi Lingling氏の発表です。同氏は、ICRAF(国際アグロフォレストリーセンター)と協力して、森林土壌への炭素投入と土壌真菌のコミュニティー変化を追跡しており、これは炭素貯蔵にもつながる話です。
- Potential of Jatropha1) cultivation on local food securities in Xiengnuen District, Lao PDR: A promotion to energize crop policy1):コンケン大学のKhambai Phunthavongsa氏らによる、ラオスでのジャトロファに関するポスター報告です。エネルギー作物として農村の貧困解決に一役買うことが期待されて導入されたものの、価格が上がらずに期待された利益が得られず、その一方で農地での食用作物栽培が脅かされているという、現地の状況が報告されました。
また、パネルディスカッションのパネリストとして講演を行った、オハイオ州立大学のRattan Lal氏は、持続的な土壌管理のための10のファクターとして、Causes of soil degradation、Soil stewardship & human suffering、Nutrient, carbon & water bank、Marginality principle、Organic vs. inorganic nutrients、Soil carbon & GHG effect、Soil vs germplasm、Soil as sink for atmospheric CO2、Engine of economic development、そしてTraditional knowledge and modern innovationsを示しました。またSoil Carbon and Ecosystem Servicesの説明で、Soil carbon poolを底面としたピラミッドの絵を掲げ、残りの4面を1. Food Security, 2. Climate change, 3. Land/soil restoration, 4. Biodiversityとした概念図を示しました。 また、同じくパネリストを務めた北海道大学の大崎満教授から、Earth system sustainabilityに関して、19世紀にはvulnerability (V)は低くresilience(R)が中程度だったが、やがて20世紀になるとRは低くなりVが高くなった。近代農業科学がこうした傾向を推し進め、一方で保全科学がそれに対抗する構図であった、との報告が行われました。21世紀にはVを低くRを高くすることが必要であるが、そのためには気候変動の理解とそれに対するmitigationとadaptationが重要というお話です。 JIRCASからは、松本成夫地域コーディネーターが、Theme 2でポスター展示による発表”JIRCAS achievements in soil fertility management and sustainable crop production in Southeast Asia”を行いました。これまで東南アジアで実施してきたJIRCASのプロジェクトを、土壌肥沃度研究の観点でまとめたものです。また、報告者からは、Theme 5のセッションで、”Achievements of JIRCAS research projects for sustainable land management and soil fertility enhancement in Africa”という題で、JIRCASが実施した過去のサヘル=ニジェール国での砂質土壌改善プロジェクトと、ガーナの水田肥沃度改善プロジェクト(農水省受託)の紹介から、特にアフリカにおいて技術開発プロジェクトの成功の鍵となるのは、技術の有効性はもちろんのこと、いかに農民、普及組織、そして政府を巻き込むかが大事という結論で話をしました。なお、本報告は、Theme 5の優秀プレゼン賞に選ばれました。報告のfull paperは、今後Proceedingsに掲載される予定です。 1) 調査対象となったジャトロファは、ポスターには、stone jatropha(属名が不明だが種小名はmontana)と記載されており、Jatropha curcusではなく、かつてJatropha属に分類されていたBaliospermum montanumのことかもしれません。