知的財産マネジメントに関する基本方針

国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
知的財産マネジメントに関する基本方針

平成29年3月13日制定
令和5年3月27日改定

はじめに

 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(以下「国際農研」という。)は、我が国を代表する国際農林水産業分野における研究機関として、食料・農業・農村基本計画等の政策の実現に向け、我が国を含む世界の農林水産業技術の向上を図り、持続可能な農林水産業の発展に寄与することを使命とする。令和3年4月から開始された第5期中長期目標期間では、「気候変動対策技術や資源循環・環境保全技術の開発」、「新たな食料システムの構築を目指す生産性・持続性・頑強性向上技術の開発」、「戦略的な国際情報の収集・分析・提供によるセンター機能の強化」に取り組んでいる。
 近年、科学技術イノベーションの創出に向けては、自前主義による研究開発だけでなく、外部の知識・技術を積極的に活用する「オープンイノベーション」が重要視されており、民間企業等との知的財産の活用連携が不可欠となってきている。一方、「オープンイノベーション」を推進するにあたっては、第3者のデータ利用を円滑にしつつ、秘匿化すべき情報等の不正流出を防ぐ対策を併せて行う必要がある。
 また、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現することを目指す「みどりの食料システム戦略」(令和3年5月、農林水産省)が策定され、国際農研はアジア・モンスーン地域の持続的な食料システムのモデルを打ち出すため、研究開発と情報発信に取り組んでいる。
 これらを踏まえ、国際農研は、研究開発成果を知的財産として適切に創造、管理、活用する「知的財産マネジメントに関する基本方針」をとりまとめ、知的財産マネジメントの戦略的推進に必要な取り組みを実施する。
 ここで取り扱う知的財産は、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術又は営業上の情報をいう。

第1 研究開発における知的財産に関する基本的な方針

 国際農研は、地球規模の食料・環境問題の解決を目指し、強靭で持続的なシステムの構築や生産性・頑強性向上に資する技術開発を強化するとともに、国際情勢の変化に応じ対象地域の重点化を図っている。
 また、国際農研が行う研究開発により、我が国の企業、生産者等が活用できる技術シーズや知見が得られた場合には、事業化等に貢献するための情報提供や現地での支援等を積極的に行っている。国際農研は、公的研究機関であり、自ら研究開発成果を直接事業化することはないため、研究開発成果を民間企業等に活用してもらうことも重要であり、民間企業等との連携も不可欠である。さらに、国際農研の研究成果を活用するセンター発ベンチャー企業への支援も有効である。
 これらのことから、研究開発成果を『地球公共財』(Global Public Goods)として開発途上地域全体で広く活用することを優先しつつ、研究開発成果の社会実装の迅速化のため、的確かつ柔軟な知的財産マネジメントを行うことを基本とする。

第2 知的財産マネジメントの取組み

1.マネジメントの進め方

 国際農研では、3つの研究セグメント(プログラム)とそれを構成するプロジェクトを設け、プロジェクトの課題毎に、研究開発の企画・立案段階で、アウトプットである研究開発成果、成果の利用者、成果の利用により得られるアウトカムを明確にするなど、研究開発成果の取扱いを策定している。また、策定した研究開発成果の取扱いは、研究開発期間中においても常に見直しを行いつつ、研究開発を推進している。研究の推進にあたっては、常に研究開発成果を知的財産として認識することが重要であり、知的財産を適切に創造、管理、活用する取り組みを強化していく。

2.研究開発成果の取扱い基本方針

 国際農研は、熱帯・亜熱帯及び開発途上地域を対象とする研究機関であり、これらの地域における農林水産業に関する技術の向上に寄与することを目的とし、世界中の多くの関係機関と連携している。このことから、研究開発成果は、地球公共財として利活用を促進できるよう積極的に公知化(公表)する。一方で、迅速な社会実装や技術普及に向けた戦略的な知的財産マネジメントを推進するため、権利化、秘匿化、標準化といった様々な方法をケースバイケースで検討し、最適な方法を選択する。なお、権利化、秘匿化にあたっては、知的財産権審査会の承認を得る。

(1)公知化

 研究開発成果は、『地球公共財』の観点から、研究成果情報、学術雑誌等への論文掲載、学会での発表等により積極的に公知化(公表)する。
 なお、公表にあたっては、事前に権利化の可能性、秘匿化の必要性等を十分検討するものとする。

(2)権利化

 権利化の対象国の知的財産関連法の整備状況を考慮した上で、以下が想定される場合に行う。なお、権利化は、権利行使の実効性が重要であることから、権利の範囲が適切かどうか、侵害があった場合の事実の立証が可能かどうか等について事前に十分に検討するものとする。

  1. ①研究開発成果のうち、さらなる応用研究や実用化研究を重ねていくべき技術で、将来の成果の利活用が期待される場合。特に、国内外の研究機関、大学、民間企業等との共同研究が期待される場合。
  2. ②研究開発成果が民間企業等によって商品化、事業化を通じ産業利用が期待される場合。
  3. ③研究開発成果を権利化しないと、第三者の自由な利用が可能になって、国際農研が中核となった利活用が妨げられる恐れが大きい場合。
  4. ④第三者が権利化することにより、国際農研の研究開発活動が制限される恐れがある場合。
  5. ⑤我が国の農林水産業・食品産業等の国際競争力の強化を図る観点から必要である場合。

(3)秘匿化

 権利化は、その内容が公開されることから、権利化しなかった国や権利の存続期間終了後においては、第三者が自由に利用することができる。このため、必要に応じ、研究開発成果を秘匿化し、ノウハウとして管理することも検討する。
 また、秘匿化にあたっては、不正競争防止法(平成5年法律第47号)上の保護が受けられるよう、営業秘密として適切な管理をする必要があることに留意する。
 なお、秘匿化に際しては、「農業分野における営業秘密の保護のガイドライン」(令和4年3月公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会)を参考に検討を行う。
 民間企業等との共同研究に伴う研究開発成果については、民間企業等が研究開発成果の利活用に係る優位性を確保するために、研究開発成果の全て、または一部を非公開とし、秘匿化することを必要とする場合があることも考慮する。特にノウハウに携わった国際農研の研究従事者(外国籍の者を含む)については、転職、退職等により秘密情報等の漏洩を防ぐため、秘密保持義務を雇用契約等により規定し、周知徹底を行う。

(4)標準化

 研究開発成果に係る技術が標準として位置付けられ、国内外の産業界等における共通の技術となることによって、当該技術が社会に広く活用されることが期待される。このことから、関係機関と連携し、共通化を図るべき技術については標準化を視野に入れる。
 国際農研の研究開発成果は、開発途上地域の事業者である零細かつ多数の農民等に利活用されることが多く、このような場合には、研究開発成果を対象地域全体で共有するとの考え方に立つことが適切である。
 なお、必要に応じ、権利化したうえで、標準化を図ることも考慮する。

3.研究開発成果の技術移転に向けた取組

 国際農研の保有する知的財産権は単なる権利の保有にとどまるのでは意味がなく、幅広く活用されることにより初めて社会貢献を果たすこととなる。また、国際農研の社会的評価及び知的創造循環の構築等の観点からも、積極的な活用と適切な管理が必要である。このことから、あらかじめ各プロジェクトの課題ごとに定めている研究成果の取扱いや活用方針に基づき、取り組むものとする。
 また、研究開発成果は、研究成果情報、学術雑誌等への論文掲載、学会での発表等により積極的に公表し、農業関係者をはじめとする関係機関との研究開発成果の活用連携を促進する。なお、その際には、権利化、秘匿化の必要性等を十分検討する。

(1)開発途上地域における技術移転

 開発途上地域での生産者・企業・普及組織等へ、利用可能な形で研究開発成果を紹介すること、研究開発成果をデータベース化・マニュアル化すること等により、研究開発成果の迅速な普及を図る。
 開発途上地域の経済事情を考慮し、権利化した知的財産については、無償または許諾料の減額により実施許諾を行うことも検討する。その際には、開発途上地域の共同研究機関との間で、国際農研の貢献を明確にする共同研究契約条件を設定するものとする。
 外国への技術移転にあたっては、我が国の農林水産業・食品産業等の産業発展に影響がないことを確認しつつ取り組む。

(2)知的財産の実施許諾等による技術移転

 権利化した知的財産の我が国及び先進国の民間企業等への実施許諾についても研究開発成果の利活用の観点で必要と認められる場合は、積極的に取り組む。また、国際農研は公的研究機関としての立場にあることから、研究開発成果を幅広く社会へ還元することが求められる。民間企業等に独占的に実施許諾を行った方が速やかな社会実装を行えると判断される場合は、その研究開発成果を地球公共財として利用する観点を踏まえつつ、ケースバイケースで柔軟にその適否について検討する。
 なお、非独占的及び独占的に関らず、実施許諾の対価については、実施許諾先と内容を十分協議した上決定する。商品化・事業化後における第三者からの権利侵害があった場合への迅速な対応も必要であることから、その費用対効果を勘案し、民間企業等へ専用実施許諾、信託譲渡等といった方法が望ましい場合は、原則公募等によって検討を行う。
 秘匿化としたノウハウに関しては、第三者への提供がしにくいというデメリットがあるものの、蓄積したノウハウを、センター発ベンチャー企業、民間企業等への実用化、事業化に貢献するための情報提供や支援等の一環として利活用することが期待される。また、独占的な実施許諾を行う場合は、公募審査等により許諾先を選定する等、公平性を確保し行う。

(3)民間企業等との共同研究による技術移転

 国際農研は、海外研究機関等との国際共同研究を推進するとともに、実用化促進のため民間企業等との共同研究による研究開発を進めている。民間企業等との共同研究により、国際農研は、民間企業等が保有している技術の活用や研究者間の技術交流を通じて、さらなる革新的な研究開発成果を創出することが期待される。また、民間企業等においては、共同研究の成果を国際農研と共有した上で独占的に利用することが可能となり、安心して商品化・事業化に取り組むことができる。なお、共同研究契約を締結する場合は、我が国の知的財産が海外や外国企業等に流出することを防ぐため、共同研究内容を精査し、目的外利用の禁止等を盛り込んだ共同研究契約を締結する等の適切な措置を行う。
 国際農研は、共同研究成果として開発された技術を民間企業等が実施する場合、国際農研持ち分相当の実施料を支払うことを求める。また、民間企業等がその技術を活用した商品化・事業化を行わない場合、国際農研は、民間企業等に、第三者への実施許諾を認めることの合意を求める。

4.未利用知的財産の管理

 特許等権利化及び維持経費が必要な知的財産は、権利化の審査状況、技術移転の状況等を踏まえ、権利化及び維持すべきか、または放棄すべきかを定期的に検討する。

5.研究者の適切な評価

 研究開発成果から得られた知的財産を国際農研帰属として活用することとしていることから、知的財産を創出したり、研究開発成果の社会実装に取り組んだ研究者の貢献を適切に評価する。また、権利化された場合や実施許諾に伴う収益が発生した場合には、当該研究者に対する補償を実施する。
 なお、ノウハウについても、権利化された知的財産と同様の補償を実施する。

第3 知的財産マネジメント体制

 知的財産マネジメントは、各プロジェクト、法務・知財チーム、知的財産権審査会が連携し実行していくものとする。

1.各プロジェクト

 各プロジェクトが研究開発を推進することより、知的財産が創造される。各プロジェクトは、以下に留意しながら、研究を推進するものとする。

  • 国際農研が公的研究機関であることを自覚し、常に研究開発成果の社会実装に至る道筋を明確にして研究を推進する。
  • 個人の判断による特許出願前の論文発表、共同出願契約を結ばずに行う共同研究成果の特許出願等、知的財産権の確保や活用の方針に反することのないよう、知的財産制度の理解に努める。
  • 自身の研究開発成果のみならず、日常の研究開発の中で使用している技術について、権利行使等実効性のあるものとするため、第三者の知的財産にどのように関連しているのかを十分に把握するものとする。
  • 法務・知財チームと連携し、情報の共有に努める。

2.法務・知財チーム

 法務・知財チームは、国際農研の知的財産マネジメントを戦略的・効率的に推進するため、知的財産マネジメントの中心的役割を担う。
 法務・知財チームは、以下の業務を行う。

  • 日常的に各プロジェクトと連絡を密にし、研究開発状況の把握に努める。
  • 各プロジェクトのアウトプットの理解に努め、研究開発成果の実用化促進のための情報を共有するものとする。また、知的財産制度の指導をおこなう。
  • 研究者から提出された勤務発明届等に基づき知的財産権審査会を開催する。
  • 権利化に伴う事務手続き、権利取得後の権利の維持、管理をおこなう。
  • 知的財産に関する許諾契約等の契約事務手続きをおこなう。
  • 研修等を企画し、研究者に対して知的財産制度の意義と内容の啓発に努める。

3.知的財産権審査会

 知的財産権審査会は、研究者から提出された勤務発明届等に基づき、研究機開発成果の権利化秘匿化等の判断、権利化後の維持放棄の判断等をおこなうものとする。なお、審査項目等については、必要に応じ、規程等を見直ししていくものとする。

第4 知的財産マネジメントの実施に当たって留意すべき事項

  • 海外の遺伝資源を利用して研究開発に取り組む場合は、国際情勢を配慮し、「生物の多様性に関する条約」(CBD)及び「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約」(ITPGRFA)の規定に従い、遺伝資源提供国の法令を遵守した上で海外遺伝資源を取得する。
  • 知的財産の権利化は国毎であることから、対象国以外への技術流出を防止する必要が生じることがある。この際、オープン・アンド・クローズド戦略により、クローズド領域での権利化による独占のみならず、秘匿化によって対処することも検討する。
  • 科学技術イノベーションの創出に向け、異分野の研究機関との保有知的財産の相互利用や融合研究の取組みを推進することが重要である。
  • 我が国の農業発展のため国内優良品種の海外流出防止措置として、新品種の日本出願に際して、持ち出し指定国の判断は特に慎重に行う。また、流出が想定される国には、できる限り品種登録を行う。
  • 新品種の育成段階にあたっては、研究用圃場及び温室等への立ち入りを制限するエリアを設け、視察等の場合を想定し研究材料等の外部への流出リスクに備える。
  • 研究開発成果の知的財産の取扱いは、ケースバイケースでの検討にならざるを得ない。このため、弁理士等専門家の助言を積極的に受けることとし、類似する知的財産マネジメントの事例を探し、共通点や相違点を整理し、適切な取扱いを検討する。
  • 知的財産制度や知的財産マネジメントに関する研修等を行い、職員等の知的財産に関する知識の向上及び理解を促す。
知的財産マネジメントに関する基本方針
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