国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
知的財産マネジメントに関する基本方針
平成29年3月13日制定
はじめに
国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(以下「JIRCAS」という。)は、「開発途上地域における持続的な資源・環境管理技術の開発」、「熱帯等の不良環境における農産物の安定生産技術の開発」、「開発途上地域の地域資源等の活用と高付加価値化技術の開発」、「国際的な農林水産業に関する情報の収集、分析及び提供」に取り組んでいる、我が国における国際農林水産業研究を包括的に行う唯一の試験研究機関として、関係機関との連携体制を強化するとともに、開発途上地域を対象とする研究開発に関して中核的な役割を担い、世界的な食料問題の解決と我が国の農林水産研究の高度化に貢献することを使命とする。
近年、科学技術イノベーションの創出に向けては、自前主義による研究開発だけでなく、外部の知識・技術を積極的に活用する「オープンイノベーション」が重要視されており、民間企業等との知的財産の活用連携が不可欠となってきている。
これらを踏まえ、JIRCASは、研究開発成果を知的財産として適切に創造、管理、活用する「知的財産マネジメントに関する基本方針」をとりまとめ、知的財産マネジメントの戦略的推進に必要な取り組みを実施する。
なお、ここで取り扱う知的財産は、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの、商標、商号その他事業活動にもちいられる商品又は役務を表示するものおよび営業秘密その他の事業活動に有用な技術又は営業上の情報をいう。
第1 研究開発における知的財産に関する基本的な方針
JIRCASは、開発途上地域の農林水産業の技術の向上や国際情勢の観点に加え、我が国の政策への貢献、我が国の農林水産研究の高度化や技術の向上への波及効果等の観点を踏まえ、研究開発を戦略的に推進することとしている。
また、JIRCAS が行う研究開発により、我が国の企業、生産者等が活用できる技術シーズや知見が得られた場合には、事業化等に貢献するための情報提供や現地での支援等を積極的に行うこととしている。JIRCASは、公的研究機関であり、自ら研究開発成果を直接事業化することはないため、研究開発成果を民間企業等に活用してもらうことも重要であり、民間企業等との連携も不可欠である。
これらのことから、研究開発成果を『地球公共財』(Global Public Goods)として開発途上地域全体で広く活用することを優先しつつ、研究開発成果の社会実装の迅速化のため、的確かつ柔軟な知的財産マネジメントを行うことを基本とする。
第2 知的財産マネジメントの取組み
1.マネジメントの進め方
JIRCASでは、4つのプログラムとそれを構成するプロジェクトを設け、プロジェクトの課題毎に、研究開発の企画・立案段階にてアウトプットとして研究開発成果の取扱いを策定している。また、策定した研究開発成果の取扱いについては、研究開発期間中においても常に見直しを行いつつ、研究開発を推進している。研究の推進にあたっては、常に研究開発成果を知的財産として認識することが大事であり、知的財産を適切に創造、管理、活用する取り組みを強化していくこととする。
2.研究開発成果の取扱い基本方針
JIRCASは、熱帯・亜熱帯及び開発途上地域全体を対象とする研究機関であり、世界中の多くの関係機関と連携している。このことから、研究開発成果は、積極的に公知化(公表)することとしている。しかしながら、権利化、秘匿化、標準化といった様々な方法について、ケースバイケースで検討し、最適な方法を選択するものとする。なお、権利化、秘匿化にあたっては、知的財産審査会の承認を得るものとする。
(1)公知化
研究開発成果は、『地球公共財』の観点から、研究成果情報、学術雑誌等への論文掲載、学会での発表等により積極的に公知化(公表)する。
なお、公表にあたっては、事前に権利化の可能性、秘匿化に必要性等を十分検討するものとする。
(2)権利化
権利化の対象国の知的財産関連法の整備状況を考慮した上で、以下が想定される場合に行う。なお、権利化は、権利行使の実効性が重要であることから、権利の範囲が適切かどうか、侵害があった場合の事実の立証が可能かどうか等について事前に十分に検討するものとする。
- 研究開発成果のうち、さらなる応用研究や実用化研究を重ねていくべき技術で、将来の成果の利活用が期待される場合。特に、国内外の研究機関、大学、民間企業等との共同研究が期待される場合。
- 研究開発成果が民間企業等によって商品化、事業化を通じ産業利用が期待される場合。
- 研究開発成果を権利化しないと、第三者の自由な利用が可能になって、JIRCASが中核となった利活用が妨げられる恐れが大きい場合。
- 第三者が権利化することにより、JIRCASの研究開発活動が制限される恐れが大きい場合。
(3)秘匿化
研究開発成果を有効に活用するため、公知化、権利化にあわせて、秘匿化についても検討する。権利化は、その内容が公開されることから、権利化しなかった国や権利の存続期間終了後においては、第三者が自由に利用することができる。このため、必要に応じ、ノウハウとして秘匿化することも検討する。
なお、秘匿化にあたっては、不正競争防止法上の保護が受けられるよう、営業秘密として管理する必要があることに留意する。
また、民間企業等との共同研究に伴う研究開発成果については、民間企業等が研究開発成果の利活用に係る優位性を確保するために、研究開発成果の全てまたは一部を非公開とし、秘匿化することを必要とする場合があることも考慮する。
(4)標準化
研究開発成果に係る技術が標準として位置付けられ、国内外の産業界等における共通の技術となることによって、当該技術が社会に広く活用されることが期待される。このことから、関係機関と連携し、共通化を図るべき技術については標準化を視野に入れる。
JIRCASの研究開発成果は、開発途上地域の事業者である零細かつ多数の農民等に利活用されることが多く、このような場合には、研究開発成果を対象地域全体で共有するとの考え方に立つことが適切である。
なお、必要に応じ、権利化したうえで、標準化を図ることも考慮する。
3.研究開発成果の技術移転に向けた取組
JIRCASの保有する知的財産権は単なる権利の保有にとどまるのでは意味がなく、幅広く活用されることにより初めて社会貢献を果たすこととなる。また、JIRCASの社会的評価及び知的創造循環の構築等の観点からも、積極的な活用と適切な管理が必要である。このことから、あらかじめ各プロジェクトの課題ごとに定めている研究成果の取扱いや活用方針に基づき、取り組むものとする。
また、研究開発成果は、研究成果情報、学術雑誌等への論文掲載、学会での発表等により積極的に公表し、農業関係者をはじめとする関係機関との研究開発成果の活用連携を促進する。なお、その際には、権利化、秘匿化の必要性等を十分検討する。
(1)開発途上地域における技術移転
開発途上地域での生産者・企業・普及組織等へ、利用可能な形で研究開発成果を紹介すること、研究開発成果をデータベース化・マニュアル化すること等により、研究開発成果の迅速な普及を図る。
開発途上地域の経済事情を考慮し、権利化した知的財産については、無償で実施許諾を行うことも検討する。その際には、開発途上国の共同研究機関との間で、JIRCASの貢献を明確にする共同研究契約条件を設定するものとする。
また、実施許諾にあたっては、我が国の農林水産業・食品産業へ支障が生じない範囲で取り組む。
(2)知的財産の実施許諾等による技術移転
権利化した知的財産の我が国及び先進国の民間企業等への実施許諾についても研究開発成果の利活用の観点で必要と認められる場合は、積極的に取り組む。また、JIRCASは公的研究機関としての立場にあることから、原則、非独占的な実施許諾を行うものとする。ただし、実施許諾先が、ブランド形成、競争優位の確保等のため、独占的な実施許諾を希望する場合は、研究開発成果の『地球公共財』の観点を踏まえつつ、ケースバイケースで柔軟にその適否について検討する。
なお、非独占的及び独占的に関らず、実施許諾の対価については、実施許諾先と内容を十分協議した上決定する。
秘匿化した研究開発成果に関しては、第三者への提供がしにくいというデメリットがあるものの、蓄積したノウハウを、民間企業等の実用化、事業化に貢献するための情報提供や支援等の一環として利活用することが期待される。
(3)民間企業等との共同研究による技術移転
JIRCASは、海外研究機関等との国際共同研究を推進するとともに、実用化促進のため民間企業等との共同研究による研究開発を進めている。民間企業等との共同研究により、JIRCASは、民間企業等が保有している技術の活用や研究者間の技術交流を通じて、さらなる革新的な研究開発成果を創出することが期待される。また、民間企業等においては、共同研究の成果をJIRCASと共有した上で独占的に利用することが可能となり、安心して商品化・事業化に取り組むことができる。
JIRCASは、この共同研究成果に関し民間企業等がその技術を実施する場合には、JIRCAS持ち分相当の実施料を支払うことを求める。また、民間企業等がその技術を活用した商品化・事業化しない場合、JIRCASに対し、民間企業等は、第三者への実施許諾を認めることについて合意することを求める。
4.未利用知的財産の管理
特許等権利化および維持するために経費が必要なものについては、権利化の審査状況、技術移転の状況等を踏まえ、権利化および維持すべきか、または放棄すべきかを定期的に検討するものとする。
5.研究者の適切な評価
研究開発成果から得られた知的財産を機関帰属として活用することとしていることから、知的財産を創出したり、研究開発成果の社会実装に取り組んだ研究者の貢献を適切に評価する。また、権利化された場合や実施許諾に伴う収益が発生した場合には、当該研究者に対する補償を実施する。
秘匿化したノウハウについても、補償を実施する仕組みを検討する。
第3 知的財産マネジメント体制
知的財産マネジメントは、各ブロジェクト、知的財産室(仮称)、知的財産審査会が連携し実行していくものとする。
1.各プロジェクト
各ブロジェクトが研究開発を推進することより、知的財産が創造される。各プロジェクトは、以下に留意しながら、研究を推進するものとする。
- JIRCASが公的研究機関であることを自覚し、常に研究開発成果の社会実装に至る道筋を明確にして研究を推進する。
- 個人の判断で論文発表を先行したり、共同出願契約を結ばずに共同研究成果の出願を行うなど、知的財産権の確保や活用の方針に反することのないよう、知的財産制度の理解に努める。
- 自身の研究開発成果のみならず、日常の研究開発の中で使用している技術について、権利行使等実効性のあるものとするため、第三者の知的財産にどのように関連しているのかを十分に把握するものとする。
- 知的財産室と連携し、情報の共有に努める。
2.知的財産室(仮称)
JIRCASの知的財産マネジメントを戦略的・効率的に推進するため、知的財産マネジメントの中心的役割を担う知的財産室を企画連携部に設置する。
知的財産室は、以下の業務を行う。
- 日常的に各プロジェクトと連絡を密にし、研究開発状況の把握に努める。
- 各プロジェクトのアウトプットの理解に努め、研究開発成果の実用化促進のための情報を共有するものとする。また、知的財産制度の指導をおこなう。
- 研究者から提出された勤務発明届等に基づき知的財産審査会を開催する。
- 権利化に伴う事務手続き、権利取得後の権利の維持、管理をおこなう。
- 知的財産に関する許諾契約等の契約事務手続きをおこなう。
- 研修等を企画し、研究者に対して知的財産制度の意義と内容の啓発に努める。
3.知的財産審査会
知的財産審査会は、研究者から提出された勤務発明届等に基づき、研究機開発成果の権利化秘匿化等の判断、権利化後の維持放棄の判断等をおこなうものとする。なお、審査項目等については、必要に応じ、規程等を見直ししていくものとする。
第4 知的財産マネジメントの実施に当たって留意すべき事項
- 海外の遺伝資源を利用して研究開発に取り組む場合は、国際情勢を配慮し、「生物の多様性に関する条約」(CBD)及び「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約」(ITPGR)の規定に従い、遺伝資源提供国の法令を遵守した上で海外遺伝資源を取得する。
- 知的財産の権利化は国毎であることから、対象国以外への技術流出を防止する必要が生じることがある。この際、オープン・アンド・クローズド戦略により、クローズド領域での権利化による独占のみならず、秘匿化によって対処することも検討する。
- 科学技術イノベーションの創出に向け、異分野の研究機関との保有知的財産の相互利用や融合研究の取組みを推進することが重要である。
- 研究開発成果の知的財産の取扱いは、ケースバイケースでの検討にならざるを得ない。このため、弁理士等専門家の助言を積極的に受けることとし、類似する知的財産マネジメントの事例を探し、共通点や相違点を整理し、適切な取扱いを検討する。
- 知的財産制度や知的財産マネジメントに関する外部研修等に積極的に参加し、能力向上を図る。
- 知的財産マネジメントに関する基本方針
- jircaspatentpolicy.pdf182.97 KB