動物実験基本指針

 農林水産に関する試験研究及び検査は、広く動植物を対象とした生命科学を基盤とし、安全な食料の生産とその安定的供給を通じて国民生活の向上に寄与するとともに、環境との調和により持続的発展を目指す我が国の農林水産業を科学的・技術的側面から支えている。こうした試験研究及び検査では、諸課題の解決に必要なやむを得ない手段として動物実験等が行われているが、これは動物に犠牲及び苦痛を強いるものであることから、動物実験等を実施する者は、動物の愛護の観点から、適正に行わなければならない。

 一方、平成17年6月に、動物の愛護及び管理に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第68号)が公布され、さらに動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号。以下「動物愛護管理法」という。)に基づき、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年4月28日環境省告示第88号。以下「飼養保管基準」という。)が制定された。これらにおいては、これまで規定されていた「科学上の利用に必要な限度において、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によってしなければならないこと(Refinement)」に加えて、「科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限り動物を供する方法に代わり得るものを利用すること(Replacement)」及び「科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限りその利用に供される動物の数を少なくすること(Reduction)」に関する規定が新たに盛り込まれ、我が国においても、国際的に普及している「3Rの原則」にのっとり、動物実験等を実施することが求められることとなった。

 このような状況を踏まえ、国際農林水産業研究センター(以下「センター」という)における実験動物を用いた動物実験等について、科学的観点と動物愛護の観点とを両立させ、その適正な実施を図るため、ここに基本指針を定める。

第1  定義

この基本指針において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

  1. 動物実験等
    動物を試験研究、検査、教育又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供することをいう。
  2. 実験動物
    動物実験等のため、施設で飼養し、又は保管している哺(ほ)乳類、鳥類及び爬(は)虫類に属する動物をいう。
  3. 動物実験計画
    動物実験等の実施に関する計画をいう。
  4. 動物実験実施者
    動物実験等を実施する者をいう。
  5. 動物実験責任者
    動物実験実施者のうち、動物実験等の実施に関する業務を統括する者をいう。

第2 理事長の責務

  1. 理事長の責務
    理事長は、センターにおける動物実験等の実施に関する最終的な責任を有し、動物実験委員会の設置、2に規定する機関内規程の策定その他動物実験等の適正な実施のために必要な措置を講ずるものとする。
  2. 規程の策定
    理事長は、動物愛護管理法、飼養保管基準その他の動物実験等に関する法令(告示を含む。以下同じ。)の規定及びこの基本指針を踏まえ、動物実験施設及び設備の整備並びに管理の方法、動物実験等の具体的な実施方法等を定めた規程(以下「機関内規程」という。)を策定するものとする。
  3. 動物実験計画の承認
    理事長は、動物実験等の開始前に動物実験責任者に動物実験計画を申請させ、その動物実験計画について動物実験委員会の審査を経てその申請を承認し、又は却下するものとする。
  4. 動物実験計画の実施結果の把握
    理事長は、動物実験等の終了後、動物実験責任者から動物実験計画の実施の結果について報告を受け、必要に応じ適正な動物実験等の実施のための改善措置を講ずるものとする。
  5. 教育訓練等の実施
    理事長は、動物実験実施者及び実験動物等の飼養又は保管に従事する者(以下「動物実験実施者等」という。)に対し、適正な動物実験等の実施並びに実験動物の適切な飼養及び保管を行うために、感染症などについての必要とされる基礎知識の修得を目的とした教育訓練の実施その他動物実験実施者等の資質向上を図るために必要な措置を講ずるものとする。
  6. 自己点検及び評価並びに検証
    理事長は、動物実験等の実施に関する透明性を確保するため、定期的に、研究機関等における動物実験等のこの基本指針への適合性に関し、自ら点検及び評価を行うとともに、当該点検及び評価の結果について、センター以外の者による検証を実施することに努めるものとする。
  7. 情報公開
    理事長は、センターにおける動物実験等に関する情報(例えば、センター内規程、動物実験等に関する点検及び評価、センター以外の者による検証の結果、実験動物の飼養及び保管の状況等)について、年1回程度インターネットの利用、年報の配布、その他適切な方法により公開するものとする。

第3 動物実験委員会

  1. 動物実験委員会の設置
    理事長は、動物実験委員会を設置する。
  2. 動物実験委員会の役割
    動物実験委員会は、次に掲げる審査等を行う。
    1. 理事長の諮問を受け、動物実験責任者が申請した動物実験計画が動物実験等に関する法令、この基本指針及び機関内規程に適合するかどうかの審査を実施し、その結果を理事長に報告すること。
    2. 動物実験計画の実施の結果について、理事長から報告を受け、必要に応じ助言を行うこと。
  3. 動物実験委員会の構成  動物実験委員会は、理事長が次に掲げる者から任命した委員により構成することとし、その役割を十分に果たすのに適切なものとなるよう配慮するものとする。
    1. 動物実験等に関して優れた識見を有する者
    2. 実験動物に関して優れた識見を有する者
    3. その他学識経験を有する者

第4 動物実験等の実施

  1. 科学的合理性の確保
    動物実験責任者は、動物実験等により取得されるデータの信頼性を確保する等の観点から、次に掲げる事項を踏まえて動物実験計画を立案し、動物実験等を適正に実施するものとする。

    (1) 適正な動物実験等の方法の選択
    動物実験等の実施に当たっては、次に掲げる事項を踏まえ、適正な動物実験等の方法を選択して実施するものとする。
  1. 代替法の利用
    科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限り実験動物を供する方法に代わり得るものを利用すること等により実験動物を適切に利用することに配慮すること。
  2. 実験動物の選択
    科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限りその利用に供される実験動物の数を少なくすること等により実験動物を適切に利用することに配慮すること。この場合において、動物実験等の目的に適した実験動物種の選定、動物実験成績の精度及び再現性を左右する実験動物の数、遺伝学的及び微生物学的品質並びに飼養条件を考慮するものとする。
  3. 苦痛の軽減
    動物愛護管理法及び飼養保管基準を踏まえ、科学上の利用に必要な限度において、できる限りその実験動物に苦痛を与えない方法によって実施すること。

(2) 動物実験等の施設及び設備
適切に維持管理された施設及び設備を用いて実施するものとする。

  1. 安全管理に特に注意を払う必要がある動物実験等
    理事長は、安全管理に特に注意を払う必要がある動物実験等を実施する際 には、次に掲げる事項に配慮するものとする。
    1. 物理的、化学的な材料、病原体若しくは遺伝子組換え生物等を用いる動物実験等、 人若しくは実験動物の安全、健康若しくは周辺環境若しくは生態系に影響を及ぼす 可能性のある動物実験等を実施する場合は、これらの取扱いに係る関係法令等の規 定並びに研究機関等の施設及び設備の状況を踏まえ、動物実験実施者等の安全確保 及び健康保持のほか、家畜衛生、公衆衛生、生態系及び環境保全上の支障を防止す るために必要な措置を講ずること。
    2. 飼養環境の汚染等により実験動物が傷害を受けることのないよう施設及び設備を 保持するとともに、必要に応じ、予防・治療等を行って、健康保持に配慮すること。

第5 実験動物の飼養、保管及び輸送

実験動物の飼養、保管及び輸送は、飼養保管基準を踏まえ、科学的観点及び動物の愛護の観点から適切に実施するものとする。

第6 その他

  1. 畜産に関する飼養管理の教育若しくは試験研究又は畜産に関する育種改良を行うことを目的として実験動物の飼養又は保管をする場合及び生態の観察を行うことを目的として実験動物の飼養又は保管をする場合にはこの基本指針は適用しない。
  2. 動物実験等を別の機関に委託する場合は、委託先においても、この基本指針基づき、動物実験等が適正に実施されるよう努めるものとする。

附則  この指針は、平成18年6月1日から適用する

国際農林水産業研究センター動物実験基本指針
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