男性研究者からのメッセージ : 林業領域 小林正樹

国際農林水産業研究を志した動機は何ですか?

 大学院博士課程で東南アジア熱帯雨林の研究を始めたことがきっかけです。それまでは、シロイヌナズナという小さな植物を材料に実験室で花が咲く(花成)時期を制御する遺伝子の研究をしていました。ところが偶然が重なり、博士課程から留学し、研究手法を大きく変え、フタバガキ科熱帯樹木の一斉開花現象について研究することになりました。一斉開花は、数年に一度、不定期な間隔で起こり、森の多くの樹木が同調して開花する不思議な現象です。この研究を行う中で、フタバガキは重要な林業樹種であるが、熱帯雨林の減少とともに個体数が大きく減少していることなどを知り、熱帯雨林の保全にも繋がるフタバガキの持続的な林業に興味を持ちました。

 

現在取り組んでいる研究内容をご紹介ください。

 東南アジア熱帯地域では、気候変動の影響により、気温や降水量が将来変化していくことが予想されています。樹木は木材として収穫できるまでに長い年月が必要であるため、それぞれの林業樹種の環境応答性を把握し、気候変動の影響を考慮した林業樹種の選定が木材の安定生産には重要です。そこで現在フタバガキ科樹木を中心に、環境操作実験により様々な林業樹種の環境応答性を調べ、樹種ごとの環境応答性の違いを生じる遺伝子を特定することに取り組んでいます。
 熱帯地域の有用林業樹種は非常に数が多く全ての種で環境操作実験を行うことは困難です。しかし、環境応答性の違いを生じる遺伝子配列の違いがわかれば、遺伝子の配列を調べるだけで効率的にその種の環境応答性を理解できるようになり、今後の気候にあった植栽樹種の選定の際の指標として利用できるのではないかと考えています。

 

若い研究者の皆さんに伝えたいメッセージは何ですか?

 これを読んでくださっている方の中には、研究分野を大きく転換するかどうかを悩んでおられる方ももしかするといるかもしれません。もちろん初志貫徹ができればそれは素晴らしいことですし、分野を変えれば新たに学ばなければならないことも多く大変なことも多いと思います。実際私も分野を途中で変えたことにより、回り道をしてしまったなと思うこともあります。ですがその回り道によって、将来の仕事にしようと思えるような興味深い研究テーマに出会えたのも事実です。研究テーマや手法の大きな転換はもちろんリスクにもなりますが、新たな気づきを得る良いチャンスになることもあるかもしれません。