国際機関動向
FAO 「2016年アフリカにおける食糧安全保障と栄養状況概観」について
2016年アフリカにおける食糧安全保障と栄養状況概観」
Regional Overview of Food Security and Nutrition in Africa 2016.
The challenges of building resilience to shocks and stresses.
FAO, 2017
2015年報告書に続き第2弾となる2016年報告書では、政策策定と効率的な実施を促進するために、食糧安全保障と栄養状況に関する理解を深めるためのツールを導入した。「食糧安全保障危機経験値指標」(the Food Insecurity Experience Scale (FIES)) は、充分な食糧へのアクセスに関した質問に対する調査対象者の主観的回答に基づいた指標である。従来の貧困・食糧安全保障指標を適用して得られた知見を引き継ぎ補完しつつ、FIESは異なる国・文化間で比較可能な食糧安全保障危機状況に置かれた人々の推計を可能にすると期待される。「ショックとストレスに対する強靭性を高める上での挑戦」と題した本書が公表された2017年2月には、折しも、国連・FAOより、南スーダンにおける飢饉、東アフリカ乾燥地域における旱魃、また南部アフリカでの急速かつ甚大な害虫被害、が報告されており、本報告書の提言はタイムリーであるといえる。以下、本報告書の主要なメッセージを要約する。
◎2014・15年に1億5300万人が深刻な食糧安全保障危機に直面
「飢餓の経験」に着目して行われた最新の調査によると、サブサハラアフリカの15歳以上人口26%にあたる1億5300万人が、2014-15年の間に深刻な食糧安全保障の危機に直面したという。言い換えれば、当該地域の15歳以上人口の4人に1人が「空腹であったにもかかわらず、食糧を獲得する現金あるいは資源が不足していたために、一食も口にしない日を経験した」と回答した。この数値は、サブサハラアフリカ地域にとり、持続可能な開発目標SDGs目標2「飢餓を終わらせ、食糧安全保障および栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」、を達成することの困難さを示している
◎幾つかの国は食糧輸入に過度に依存
2014-2016年の間、サブサハラアフリカ全域平均で食事摂取基準のエネルギー供給 (Dietary Energy Supply (DES)) の110%を達成した。しかし地域格差は大きく、地域によっては国内供給が不足し、不足穀物の3割程を輸入に頼らざるを得ない状況に置かれている。食糧需要を充たすために農業生産性・生産・付加価値を増加させるための早急な対策が必要である。 ◎地域でみた貧困水準は減少したものの、世界的に見てアフリカの貧困は未だに高水準 1990年から2014年まで一人当たり所得は30%上昇したものの、サブサハラアフリカの平均所得は他の地域に比べて著しく低水準に留まっている。貧困水準は下落したものの、世界的に見て未だ高水準であり、貧困層半減を達成するには程遠い状況にある。貧困削減と食糧安全保障のために、農業部門を中心とした経済構造の変革が必要である。
◎栄養失調・栄養不良・肥満の三重苦
栄養失調改善に進歩は見られたものの、非伝染性疾患や微量栄養素(ビタミン・ミネラル)不足レベルの上昇もあり、サブサハラアフリカは、未だ栄養失調・栄養不良・肥満の三重苦に陥っている。近年、栄養と農業を政策的・制度的に統合する取組が増えている。アフリカ諸国は農業・栄養・社会的保護を統合し、持続的に成果を挙げていくために、マルチセクター・学際的なアプローチを採択することが奨励されている。
◎食糧市場・商品価格の不安定性と自然災害
食糧市場・商品価格の不安定性と、深刻な旱魃・洪水などの自然災害は、穀物不作・家畜飼料水不足・政情不安をもたらし、サブサハラアフリカにおける食糧安全保障危機と栄養失調の主要な原因となっている。2014・15年のエルニーニョ・ラニーニャ現象は、過去100年の間でも最も深刻かつ広域な影響をもたらし、アフリカでは6000万人以上が旱魃と洪水により農業・食糧安全保障・栄養状況を脅かされた。気候変動適応・緩和につながる適切な技術の促進・普及を通じ、ショック・ストレスのインパクトを最小化し、コミュニテイの強靭性を高めるための、短・中・長期的な対処法を講じなければならない。
◎政策提言・戦略
多くの国からの経験は、飢餓と栄養失調撲滅を目指したセクター横断的な政策・プログラムを効果的に組み合わせることの重要性を証明している。マラボ宣言・持続可能な開発目標それぞれを2025・2030年に達成するとコミットした野心的な目標を踏まえ、各国は従来の政策を見直し、改善していく必要がある。紛争地域においては、農業に依存する生業を復興させ、長期的な強靭性に必要な条件を整える上で、平和構築努力が必須である。
詳しくは以下のリンクにある報告書原本を参照。
http://www.fao.org/3/a-i6813e.pdf
(文責:飯山みゆき)