サイエンスQの出前授業 : 発酵食品の伝統から、新しい発見の喜びを

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2021-01-12

はじめに~発酵食品の伝統から、新しい発見の喜びを

サイエンスQは、筑波研究学園都市交流協議会が主催する、研究機関の研究員が学校を訪問して小・中学生の科学技術に関する疑問に答えるイベントです。このたび、生物資源・利用領域の丸井淳一朗研究員が講師に選ばれ、平成28年12月8日につくば市光輝学園葛城小学校を訪問し、3年生の皆さんを対象とする「醤油や味噌は外国にもあるの?」と題した出前授業を行いました。担任の先生との事前の打ち合わせにおいて、今年の遠足で醤油の醸造所を見学し、発酵に対して関心が高まっているとの情報を得ていました。そこで、授業では実際の微生物を使った簡単な実験を行い、発酵食品づくりにおいて小さな微生物が大きな力を持つことを理解してもらいました。また、ラオスで製造した魚醤の実物を準備し、日本の醤油や味噌とも相通じる東南アジアの伝統的な食文化を知ってもらい、更には、ラオスという国を身近に感じてもらえる機会となるよう心がけました。

授業の詳細

授業当日は、JIRCASについて紹介した後、日本の醤油や味噌の発酵で実際に働いている3種類の微生物(こうじかび、乳酸菌、酵母)の活躍について、クイズ形式の問いかけを交えて説明しました。こうじかびが作る分解酵素の働きで、デンプンがブドウ糖(=甘味のもと)に、たんぱく質がアミノ酸(=うま味のもと)に変わることを確かめる実験や、乳酸菌が出す、ほのかに酸っぱい匂いなどを体験する場も設けました。普段はその存在を意識していない微生物が重要な働きをすることや、それらを巧みに操る発酵技術を作り上げた先人の叡智、そして、私たちの食事にまで受け継がれている発酵食品の長い伝統について、理解を深めてもらえたと感じました。

 

授業の後半では、日本を含む東アジア一帯では大豆を原料とした醤油、味噌等の発酵調味料が一般的であるが、東南アジアでは、大豆ではなく魚を使った発酵調味料の魚醤が広く作られていることを話しました。東南アジア唯一の内陸国であるラオスでは、川や湖で獲れるナマズ、コイ、フナの仲間など淡水魚が大切な食料であるとともに、熱帯の気候の中でも魚を腐らせず、おいしく活用するため魚醤が作られ、それを活かした食文化が発達しています。今回は、共同研究を実施しているラオス国立大学農学部で試作した、発酵が進行中のラオス語で「パデーク」と呼ばれる塩辛にも似た魚醤の一種を教室に持ち込みました。これは、淡水魚に塩と米ぬかと混ぜ、1年間かけて作られたものです。その容器のふたを教室で開いた時には、その日一番の歓声が上がりました。どんな匂いかと思いきや、日本の味噌や醤油に近く、食べ方、使い方や、人々が持つ愛着までも醤油や味噌とよく似ていることも説明しました。そして、仕込みの際の塩加減によって発酵に働く乳酸菌の種類が異なり、含まれる乳酸の量に差が出ることや、発酵の期間が長くなるほど「うま味」のもとになるアミノ酸が増える様子を、棒グラフを使って詳しく説明しました。また、これらの成果をラオスの伝統的な魚醤作りや、研究・教育の発展に役立てるための取り組みについても紹介しました。

授業の終わりには、クラスの皆さんからの積極的な質問に圧倒されながら、海外に出て、伝統ある発酵食品や微生物について現地の人たちと一緒に研究することの面白さについても語りました。今回の授業を聞いて、友達や、家族の方々とも、伝統的な発酵食品や微生物の活躍、また、食文化が思わぬ所でつながっている広い世界について話題になればと思っています。翌日には、クラスの皆さん一人一人から心のこもったお礼のお手紙も頂き感激しています。この授業を通して得た経験を励みとして、これからの活動に活かしていきます。

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