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1312. 熱波について

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1312. 熱波について

 

現在、尋常でない熱波が日本を覆っていますが、世界各地で異常気象が観測されています。4年前の2021年8月に公表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書・第 1 作業部会報告書(自然科学的根拠)によると、気候変動の加速により、熱波や豪雨、干ばつや洪水等の極端現象の頻度がより高まっていくことが予測されています。

昨年、Pick Upでとりあげた熱波の記事を振り返ってみます。


1072. 熱波の定義・インパクト・原因

 

熱波の定義

国際的に合意された熱波の定義はなく、地域や国ごとの気候・地理・社会的状況を考慮して熱波の閾値は異なります。温度データの使用方法によっても定義は異なる場合があります。たとえば、2023年欧州気候白書(European State of the Climate 2023)は、熱波を、「少なくとも3日連続して、地表気温最低値および最大値の両方がその地域における1991年から2020年の参照期間中の最高気温上位5%よりも高い値に上昇した期間」と定義しました。

 

熱波のインパクト 

世界のほとんどの地域では、熱波は高温を伴います。世界保健機関(WHO)によると、熱ストレスは気象関連の死亡の主な原因であり、心血管疾患、糖尿病、メンタルヘルス、喘息などの基礎疾患を悪化させる可能性があり、一部の感染症の事故や伝染のリスクを高める可能性があります。

熱波は、特に長期間の乾燥した天候や干ばつと組み合わさると、環境的および社会経済的に大きなインパクトをもたらします。極端に暑い期間が続くと、土壌水分が減少し、河川の流れが減少し、地下水の貯留が枯渇することで、農業・工業・家庭用の水利用可能性に影響を及ぼします。水供給の減少は、水資源をめぐる紛争、取水・配水のコスト増加につながる可能性があります。

農業において、熱波は作物に深刻な被害を与え、収穫量を減少させる可能性があります。平均よりも高い気温は、植物にストレスを与え、成長を損ない、病気にかかりやすい状態をもたらします。家畜も影響を受け、熱ストレスのリスクが高まり、生産性が低下します。さらに、海洋熱波は水温の上昇により漁業や養殖業に影響を及ぼし、収穫量を減少させる結果、生産者は経済的損失を被り、消費者は食料価格上昇に直面する可能性があります。

 

熱波の原因 

熱波は主に、特定の領域に暖かい空気を閉じ込める高気圧システムによって引き起こされます。これらの高気圧(high pressure systems、anticyclonesとも呼ばれる)は、空気を圧縮させることで熱のドームを作り、地表面の温度を上昇させます。高気圧の下は雲に覆われないため、日射量が多くなり、地面とその上の空気がさらに加熱され、長期間の熱波が発生する可能性があります。

気候変動も、熱波の頻度と強度の増加に寄与する重要な要因です。大気中の温室効果ガスの蓄積による気温上昇は、極端な熱波の可能性を高めます。さらに気候変動は大気循環パターンを変化させることで、熱波を助長する持続的な高気圧をもたらす可能性があります。

その他の要因として、都市化と土地利用の変化があげられます。都市部は、インフラが密集し、緑地が限られているため、周囲の農村部よりも気温が高いヒートアイランド現象を経験しています。森林破壊や農業による土地利用変化も、地表のエネルギーバランスを変化させることで地域の温度と湿度のレベルに影響を与える可能性があります。

 

熱波の緩和と適応

熱波の頻度、強度、期間は増加し続ける可能性が高く、気候変動、都市化、人口高齢化の複合的な影響により、将来的に公衆衛生に深刻な影響を及ぼします。したがって、脆弱な人々を保護するためには、緩和戦略と適応戦略が不可欠です。緑地の増加を通じた自然冷却の促進や、ヒートアイランド現象を減らす都市道路網レイアウトと建物設計改善など、都市計画の役割が期待されます。さらに、エネルギー効率の高い建物と冷却システムを推進することで、猛暑期に増加するエネルギー需要を管理しながら、全体的な温室効果ガス排出量を削減することがもとめられます。

公衆衛生の取り組みは、熱波の影響を軽減するためにも重要です。早期警報システムは、コミュニティに差し迫った熱波を警告し、予防措置を講じることを可能にします。

熱波の頻度と強度の増加に効果的に対抗する究極の方法は、気候変動対策に断固たる行動を取ることです。再生可能エネルギー源への移行、エネルギー効率の高い技術の導入、持続可能な慣行の採用を通じて、温室効果ガスの排出量を削減することが不可欠です。

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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