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1248. メンデルのエンドウ豆に関する遺伝学の謎が解明

1248. メンデルのエンドウ豆に関する遺伝学の謎が解明
修道士グレゴール・メンデルは、160年以上前にエンドウ豆(Pisum sativum)の種子や莢の形や色など、7つの形質を綿密に研究し、遺伝的遺伝に関する画期的な研究を成し遂げました。4月23日にNature誌に掲載された論文で、7つの形質のうち残された最後の3つのエンドウ豆形質を担う遺伝子が特定されました。
市民科学者であったメンデルは、19世紀半ばに約28,000本のエンドウ豆を交配させ、その形質が将来の世代にどのように受け継がれるかを解明するという一連の実験を行ったことで有名です。当時はまだ遺伝子の概念は存在していませんでしたが、メンデルは植物が子孫に遺伝的「因子」を伝え、それが子孫が「優性」遺伝子か「劣性」遺伝子(対立遺伝子)を受け継ぐかを決定すると結論付けました。
科学者たちは今日でもメンデルの法則に則った形質を研究し続けています。メンデルの形質のうち、遺伝子と関連付けられた最初のものは種子の形でした。エンドウ豆の品種の中には、乾燥するとしわが寄り、生で食べると甘い味がするものがあります。メンデルは、それらの種子が劣性遺伝子の「しわ」型遺伝子を持つことを示しました。優性遺伝子の「丸い」型遺伝子を持つエンドウ豆は、乾燥しても滑らかなままで甘みが少なく、スープや飼料として利用されることが多いのです。1990年、糖をデンプンに変換する酵素をコードする遺伝子が特定されました。優性遺伝子は種子にデンプンを詰め込み、滑らかさを保つ一方、劣性遺伝子は不活性酵素を作り、種子に糖分をより多く残します。その後、科学者たちは、植物の高さ、花と種子の色という3つの形質に関わる遺伝子を発見しました。
エンドウ豆のゲノムサイズが大きく、小麦、トウモロコシ、イネといった注目度の高い作物に重点が置かれていたため、さらなる進歩は遅れていました。しかし、配列決定コストが下がるにつれて、状況は変わりつつあります。近年、シーケンシングと計算ツールは、遺伝子に取り組むのに十分なほど進歩し、研究者たちは徐々にこれらの形質をDNA配列にマッピングしています。エンドウ豆に関するこれまでで最大規模のゲノム研究は、残りの3つの遺伝子に加え、エンドウ豆の育種家が植物の改良に活用できる多くの遺伝子を明らかにしました。今回の研究は、エンドウ豆が栽培化された中東地域や、多様性のホットスポットであるエチオピアとヒマラヤ山脈からのものを含む大規模で多様なコレクションを網羅する約700種類のエンドウ豆の配列を解析し、植物の物理的特性と相関する重要な遺伝子の位置を絞り込みました。 これらの遺伝子には、メンデル遺伝形質の残り3つ、すなわちエンドウ豆の鞘の色、花の配置、そして鞘が食用かどうかに関わる遺伝子も含まれています。
今回の研究はエンドウ豆ゲノム研究における新たな時代の幕開けとなるかもしれません。エンドウ豆タンパク質市場は、代替タンパク質源市場の中でも最も成長が著しい市場の一つであり、豊富なマーカーを含むゲノムマップは、メンデルの遺産を基盤として育種家が新たな技術を開発するのに役立つことが期待されます。
(参考文献)
Amanda Heidt. Century-old genetics mystery of Mendel’s peas finally solved. 23 April 2025 NEWS. Nature. doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-01269-8
Erik Stokstad. Last of Mendel’s seven genetic riddles solved. Science Volume 388, Issue 6745Apr 2025. https://www.science.org/doi/epdf/10.1126/science.ady4511
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)