ダイズの干ばつ耐性に関わる遺伝子GmERA1 の機能を解明
GmERA1遺伝子の発現を抑制したダイズでは、乾燥ストレスに対する生理応答が促進され、干ばつ耐性が向上する。
背景・ねらい
世界各地で頻発している大規模な干ばつはダイズ生産に大きな影響を与えており、干ばつ耐性品種とその育種素材の開発が求められている。シロイヌナズナなどのモデル植物を用いた研究からは、干ばつ耐性に関わる遺伝子が多数同定されている。その一つであるシロイヌナズナAtERA1遺伝子については、AtERA1遺伝子の発現を抑制することで干ばつ耐性が誘導されることが報告されている。ダイズのAtERA1相同遺伝子 (GmERA1) についても干ばつ耐性に関わることが推定されるが、その遺伝子機能については解析されていない。一方、ダイズの研究においては、遺伝子機能の解析をするための植物材料の準備が課題の一つとなっている。そこで本研究では、短期間で植物材料を準備することが可能であるウイルスベクターを用いた実験手法を使用し、干ばつ耐性に関わることが推定されるダイズGmERA1遺伝子の機能を明らかにする。
成果の内容・特徴
- リンゴ小球型潜在ウイルスはウイルスベクターとして利用されている植物ウイルスの一つであるが、GmERA1遺伝子断片を発現するリンゴ小球型潜在ウイルスに感染したダイズでは、GmERA1遺伝子の発現が抑制される。この手法により、短期間で目的遺伝子の機能解析が可能なダイズ植物材料を準備することができる。
- GmERA1遺伝子の発現を抑制したダイズの葉では、乾燥ストレスに対する応答が向上し、気孔開度の指標である気孔コンダクタンスの低下と、高い葉面温度の誘導、水分損失の遅延を生じる(図1)。また、低濃度の植物ホルモンのアブシシン酸に応答し、気孔を閉鎖する。
- GmERA1遺伝子の発現を抑制したダイズ個体では、灌水停止処理試験において高い生存率を示し、干ばつ耐性が向上する(図2)。
成果の活用面・留意点
- ウイルスベクター法を用いることで、遺伝子組換え体の作出が困難な作物種においても、短期間で干ばつに対する遺伝子の機能を解析することができると期待される。
- ウイルスベクター法では対象とする遺伝子の発現は完全に抑制されず、また、栽培期間全体でその効果をみることは難しい。安定的なGmERA1遺伝子の変異体を用いた栽培試験により、農業形質に与える影響や干ばつ耐性を調べていく必要がある。
- GmERA1遺伝子の発現を抑制した系統を作出することで、干ばつに強いダイズの育種素材の開発につながることが期待される。
具体的データ
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GmERA1組換えウイルスに感染したダイズ葉における、葉切除後の気孔コンダクタンス (A)、葉面温度 (B)、および水分保持率 (C) の経時的な変化。エラーバーは標準偏差 (n = 3から6)。図はOgata et al. (2017) を改変。 -
3日間の灌水停止処理後に再吸水させたダイズ個体の代表写真(左)と生存率(右)。エラーバーは標準偏差 (n = 6)。図はOgata et al. (2017) を改変。
- Affiliation
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国際農研 生物資源・利用領域
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 不良環境耐性作物開発
- 研究期間
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2017年度(2016~2020年度)
- 研究担当者
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小賀田 拓也 ( 生物資源・利用領域 )
永利 友佳理 ( 生物資源・利用領域 )
藤田 泰成 ( 生物資源・利用領域 )
山岸 紀子 ( 岩手大学農学部 )
吉川 信幸 ( 岩手大学農学部 )
科研費研究者番号: 40191556 - ほか
- 発表論文等
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Ogata T et al. (2017) PLOS ONE, 12(4): e0175650
- 日本語PDF
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- ポスターPDF
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