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1122. 水循環はグローバルコモンズである

1122. 水循環はグローバルコモンズである
世界は洪水・干ばつなどの水災害の頻発化に直面しており、このような水循環バランスが崩れた事態は、人類史上初めてといえます。全ての人々にとって公平で持続可能な未来の実現には、水循環の安定性の復元が喫緊の課題です。
水の経済学に関するグローバル委員会(Global Commission on the Economics of Water)は、水循環をグローバルコモンズとして認識することの重要性を訴えました。
水の使用と供給の両方を根本的に変革するには、縦割りのセクター別の考え方から、ブルーウォーター(河川水や地下水など、かんがいの元となる水)およびグリーンウォーター(植物が利用する土の中の水)の両方を含む水循環全体に対する経済全体のアプローチへのシフトが必要です。GCEWは、安全で公正な水の未来に向け、①食料システムの新革命・②グリーンウォーター維持に必要な自然生態系の保全回復・③循環経済の構築・④集約的水利用を緩和するクリーンエネルギーとAI利用促進・⑤2030年までに安全でない水を原因とした幼児死亡の撲滅、の5つのミッションを提案しています。①について、以下にまとめます。
半世紀以上前の緑の革命は、収量を大幅に増加させ、多くの人々を貧困から救い出しました。私たちは今、大量の水と窒素肥料に依存する農業の在り方を再構築し、地球の健康を維持しながら、農家の収入を向上し、全ての人々に栄養ある食を提供するために、改めて農業における大きな変革を必要としています。そのために、水の生産性、つまり水一滴あたりの収量を最大化すること、そして土壌水分の保持において、抜本的な進歩を達成する必要があります。
それを可能にするには、伝統的な農家に対する小規模灌漑技術へのアクセスを拡大し、気候変動に強靭な品種と作付パターンを導入することが求められます。増大する食料需要を満たすために、今後数十年間に灌漑を拡大する必要がありますが、以上の対策を組み合わせることで、2050年までに灌漑水消費量を4分の1以上節約できると推定されています。
最善の成果を達成するには、以上の対策を規制措置と組み合わせ、取水量を抑制する必要があります。このことにより、節約された水を拡大する灌漑地域に配分する一方、水集約的な作物に使用されないようにする必要があります。
さらに、土壌中の有機炭素の貯留や土壌水分の保持など、土壌の健全性維持を目指す再生農業システムの採用を大幅に強化する必要があります。これらのシステムを達成するためには、大規模な農産業部門に働きかけてサプライチェーンを変革するとともに、再生可能な農産物の需要を高め、持続可能な伝統技術を回復するための農家中心のソリューションを創出する必要があります。
同時に、私たちは水を大量に消費する食品への依存を減らす必要があります。2050年までに、特に赤身肉や乳製品の消費量が多い高所得国において、食生活における植物由来食品の割合を約30%にまで増やすことを目指すべきです。これを世界的に実現することは野心的であり、消費者の習慣を変えるには時間がかかりますが、必要なことです。
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)