国際農研発 第2号ベンチャーが誕生!
―オイルパームバイオマスの原料マルチ化プロセス特許等成果を活用―
令和4年11月9日
国際農研
国際農研発 第2号ベンチャーが誕生!
―オイルパームバイオマスの原料マルチ化プロセス特許等成果を活用―
ポイント
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概要
国際農研では、「ベンチャー企業等の認定及び援助等に関する規程(令和3年9月8日制定)」に基づき、職員によるベンチャー企業の設立を促進するとともに、国際農研が開発した研究成果の普及や研究活動の活性化に貢献するベンチャー企業に対し、研究施設や設備の有償使用、特許の実施許諾における優遇措置等の支援を行う制度を設けています。
この度、同制度を利用した第2例目となる国際農研発ベンチャー『株式会社JIRCASドリームバイオマスソリューションズ(社長:小杉 昭彦)』が認定され、令和4年10月4日に法人登記が完了しました。JIRCASドリームバイオマスソリューションズは、国際農研と国内外の民間企業および大学等で構成された共同研究グループが開発した原料マルチ化プロセスを用いて、未利用のオイルパームバイオマスを原料とする燃料および資材製造を行うための事業化コンサルティングとプラントの設計・建設支援・運用支援、製品販売事業を展開する計画です。
オイルパームは世界で最も生産・消費されている重要な油脂であり、食用や工業用に広く利用されています。国際農研では長年にわたり、オイルパーム油製造に伴い大量に廃棄される農作物残渣の利活用技術や高付加価値化技術に関する研究を行ってきました。オイルパーム農園を持続的に利用していくためには、農園内に放置・廃棄されるオイルパーム古木(以下、OPT)を再資源化し、農園内の環境負荷を低減しながら農地の再利用を促す方策が必要です。国際農研を中心とする共同研究グループは、OPTのアップサイクルを図るため、良質でカーボンニュートラルな燃料ペレットや資材ペレットの製造技術、OPTの樹液や廃液から糖分やエネルギーを回収する技術などを開発してきました。さらに、OPTの枝葉(OPF)やヤシ殻空果房(EFB)など、繊維が長く利用が困難だったバイオマスについても爆砕前処理を施すことで、OPT用に開発したペレットなどの製造システムが利用可能となる「原料マルチ化プロセス」の開発に成功しています。「原料マルチ化プロセス」は、廃液からバイオガスを回収し、発電に利用することで、外部からエネルギーを供給することなく、液肥製造や使用した洗浄水の再生も可能にするゼロエミッション型プロセスとして設計されており、製造される燃料および資材ペレットは、カーボンニュートラルな製品となります。
通常、異なる特徴を持つバイオマスに対して、共通の処理プロセスを適用することは難しく、バイオマス原料ごとに専用の処理プロセスを導入することが一般的でしたが、専用のシステムでは、原料となるバイオマスの調達量や調達コストの変動によって操業が不安定となる懸念があります。
一方、「原料マルチ化プロセス」は、多種多様なバイオマス原料に同じ処理プロセスが適用できるため、均質なペレットを安定的に製造できるとともに、工場操業率を常に高く維持することで、製造コストと製造量の安定化を図ることができます。多様なオイルパーム産業由来の廃棄物を利用できることから、オイルパーム搾油工場から数kmの狭い範囲の農園から必要な原料が調達可能です。また、搾油工場あたり年間で最大10万トンの燃料ペレットが製造可能と想定できることから、バイオマス事業収益性の大幅な向上が期待できます。
国際農研では現在、SATREPSパームトランクプロジェクト3)を実施しており、社会実装の一環として、マレーシア国サラワク州において、「原料マルチ化プロセス」を導入した工場建設を支援しています。これまでに開発した研究成果を活用したオイルパームバイオマスの本格的な有効利用が、間もなく開始される運びとなっています。
JIRCASドリームバイオマスソリューションズは、主にオイルパーム油産業由来の未利用バイオマスを原料として、再生可能エネルギーや再生可能資源に変換・利用するサーキュラーエコノミー4) 産業の創出・育成・拡大をリードすることを目指して設立されました。研究開発成果の社会実装を推進する国際農研発のベンチャーとして、国内外の農林水産業の持続可能性を高め、環境と調和した持続可能なオイルパーム油産業の形成により、みどりの食料システム戦略にも繋がる環境負荷を軽減した油脂の調達を可能とし、地球環境の保全に貢献します。
問い合わせ先
国際農研(茨城県つくば市)理事長 小山 修
- 研究推進責任者:
- 国際農研 プログラムディレクター 林 慶一
- 研究担当者:
- 国際農研 生物資源・利用領域 小杉 昭彦
- 広報担当者:
- 国際農研 情報広報室長 大森 圭祐
プレス用 e-mail:koho-jircas@ml.affrc.go.jp
本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会に配付しています。 |
※国際農研(こくさいのうけん)は、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センターのコミュニケーションネームです。
新聞、TV等の報道でも当センターの名称としては「国際農研」のご使用をお願い申し上げます。
用語の解説
- 1) 原料マルチ化プロセス
- 国際農研を中心とする共同研究グループが開発した、バイオマス原料の種類に依存しないペレット製造プロセスのことです。原料に対して爆砕前処理を行うことで、OPFやEFBなど長繊維なバイオマスについてもOPTと同じペレット製造プロセスが適用でき、同質のペレット製造が可能になりました。
- 2) アップサイクル
- 廃棄物を単に再利用するのではなく、元の製品よりも付加価値の高い製品を生み出すことを目的とする再資源化方法です。
- 3) SATREPSパームトランクプロジェクト
- 科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)による「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」において、2018年度に『オイルパーム農園の持続的土地利用と再生を目指したオイルパーム古木への高付加価値化技術の開発』として採択されました。
https://www.jst.go.jp/global/kadai/h3001_malaysia.html - 4) サーキュラーエコノミー
- 資源や製品の質をできる限り落とさずに循環させることで、エネルギー消費や廃棄物発生などの環境負荷を最小化する持続可能な経済システムを意味します。循環性を高める産業デザインや社会システムが発展し、雇用や成長につながることが期待されています。