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238. 東・東南アジア地域の農産品から機能性食品の開発をめざす

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アジア地域のさまざまな地域食料資源
 東・東南アジア地域では、在来農林水産物や伝統発酵食品などのさまざまな地域食料資源があり、機能性食品(用語1)や新たな加工食品の原料として利用できるものが数多くあります。また、各地の伝統発酵食品のように加工技術に共通性が見られる場合もあり、それらの特徴を明らかにすることにより、よりよい製造・加工技術を他の地域に普及させることも可能です。一方で、地方独特の原料や製造方法、発酵微生物などにより生産された食品には、これまで知られていない機能性成分(用語1)が見つかる可能性があり、それらを機能性食品の原料として利用することができれば、地域の農業や食品産業を一層発展させることができます。

酵素測定技術の開発
 さまざまな食品に含まれる機能性成分は、ヒトの体内の酵素に作用することで効果を発揮します。例えば、血圧を下げる働きのある成分は、血圧を調節している酵素と結びついて、その働きを強めたり弱めたりします。そこで、ヒトの酵素を人工的に合成し、食品中に機能性成分があるかどうか、実験室で測定できるようにします。しかし、私たちが研究を行っているアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)(用語2)の場合、大腸菌などでは上手く酵素を作ることが出来ませんでした。そこで、秋田県総合食品研究センターと共同研究を行い、ヒトのACE2とよく似た作用をもつ酵素(B38-CAP)を白神山地の微生物から発見し、大量合成に成功しました。また、秋田大学などとの共同研究の結果、B38-CAPをマウスに注射すると、ACE2を注射した場合と同じように、血圧降下や心不全の症状改善等の作用を示しました。
 以上のことから、B38-CAPがACE2の代わりとして利用できることが明らかになりました。

宇宙実験における酵素の結晶化
 機能性成分の働きを知るためには、そのターゲットとなる酵素の立体構造(用語3)を解き明かす必要があります。そこで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究を行い、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟において、酵素の結晶を作製し、その立体構造を明らかにしました。重力がほとんどない宇宙ステーションでは、地上に比べて大きくきれいな結晶を作ることができ、より細かい立体構造を調べることができます。

未知の機能性成分を探す
アジア地域では近年の経済発展により、健康への意識が高まり体に良い食品や農作物に対する関心が強まっています。これまでに私たちが開発した新しい酵素の測定方法を使って、東・東南アジア地域のさまざまな食品や農産物から機能性成分を探し出し、人々の健康に役立つ機能性食品を開発したいと考えています。

 

用語説明
1.機能性食品、機能性成分
食品には、生命を維持するために必要不可欠な栄養を補給するという役割や、味や匂いなど美味しさを感じさせる役割のほかに、血圧や血糖値の維持のような生理機能を調節する働きも持っています。このような生理機能を調節する働きをもった成分を機能性成分といい、機能性成分を含んだ食品を機能性食品といいます。

2.ヒトアンジオテンシン変換酵素2(ヒトACE2)
  ヒトの血圧を上昇させる作用をもつホルモンであるアンジオテンシンⅡを分解し、血圧を下げる働きをもつ酵素。心不全の症状を改善する働きや、肺の炎症を抑える働きもあります。

3.酵素の立体構造
  酵素は、アミノ酸が鎖のようにつながったタンパク質であり、その鎖が一定の形に折り畳まれることにより酵素としての働きをもちます。この折り畳みのことを酵素の立体構造といいます。立体構造を知るための実験として、酵素の結晶を用いる方法があります。

本文は、広報JIRCAS掲載記事を再掲しています。

(生物資源・利用領域 韮澤 悟)

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