国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

東南アジアにおける肉牛からの消化管発酵由来メタン排出量の推定

要約

東南アジアにおける肉牛からの消化管発酵由来メタンの排出量と変換係数は、飼料摂取量、飼料の化学成分と飼料消化率から推定できる。メタン排出量の推定に利用されているメタン変換係数の東南アジア肉牛での値は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による既定値よりも高い。

背景・ねらい

東南アジアでの牛からの消化管発酵由来メタン排出量の現状把握や抑制技術開発のために、国際農研ではタイおよびベトナムに牛用メタン排出量測定装置を設置し、1990年代後半から測定を行ってきた。IPCCガイドライン(2006年版)では、メタン排出量算定に利用されるメタン変換係数(摂取したエネルギー当たりの排出されたメタンのエネルギー)の既定値は地域によらず一定としているが、東南アジアへの適用に際しては、その妥当性について検証が必要である。東南アジアで利用可能な肉牛からのメタン排出量推定方法を提案するとともに、メタン変換係数を求める。

成果の内容・特徴

  1. タイおよびベトナムにおいて一般的な肉牛である、タイ在来種雄牛、ブラーマン種雄牛、およびライシン種雄牛(写真1)におけるメタン排出量、飼料摂取量、飼料成分、消化率および体重(2005~2016年)をデータベース化し(データ数はそれぞれ、121例、171例および40例)、混合モデルによるメタデータ解析を行う。
  2. メタン排出量は、乾物摂取量、および飼料の乾物当たり粗脂肪含量から(表1 (1)式)、あるいは、乾物摂取量のみから推定が可能である(表1 (2)式)。これは、摂取した飼料の発酵によってメタンが生じること、脂肪はメタン産生に関与する発酵に抑制的に働くためである。
  3. メタン変換係数は乾物摂取量、体重、飼料中の乾物当たり粗タンパク質含量と粗脂肪含量、および、乾物消化率により推定できる(表1 (3)式)。これは、飼料の消化管内における発酵量とこれに影響を与える化学成分がメタン変換率に影響しているためである。
  4. 飼料中の粗飼料比率によって牛を低粗飼料群、中粗飼料群および高粗飼料群に分類すると、(3)式から求めたメタン変換係数はそれぞれ7.3%、7.3%および8.1%となり、高粗飼料群が低・中粗飼料群よりも高い(図1)。これらの値はIPCCガイドライン(2006年版)における穀物を多給されていない牛での既定値(6.5%)よりも高く、規定値を用いた場合、排出量を過小評価する可能性がある。

成果の活用面・留意点

  1. 推定式作成には2005年から2016年に得られた測定結果を用いた。
  2. 本推定式を用いることにより、IPCCガイドラインの現状の推定方法(Tier1)より高い精度での推定(Tier2)が可能となる。
  3. 本推定式は東南アジアの肉牛に限定する。

具体的データ

  1. 写真1 メタン排出量測定を実施した牛品種
    写真1 メタン排出量測定を実施した牛品種

  2. 表1 メタン排出量およびメタン変換係数の推定式

     
    最小二乗誤差
    R2
    (1)
    メタン排出量(g/日) = 22.67 × 乾物摂取量(kg/日) - 3.73×粗脂肪(%乾物) + 23.32
    18.64
    0.783
    (2)
    メタン排出量(g/日) = 22.71 × 乾物摂取量(kg/日)
    19.36
    0.766
    (3)
    メタン変換係数(%) = - 0.782 × 乾物摂取量(kg/日) / 体重(kg)
                       - 0.073 × 粗タンパク質(%乾物) - 0.436 × 粗脂肪(%乾物)
                        + 0.049 × 乾物消化率(%) + 8.654
    1.348
    0.391
    R2, 自由度調整済み決定係数;モデルでは牛品種を固定効果ではなく変量効果として扱った。
  3. 図1 粗飼料比率(乾物ベース)別のメタン変換係数
    図1 粗飼料比率(乾物ベース)別のメタン変換係数
所属

国際農研生産環境・畜産領域

分類

研究

国名
  • タイ
  • ベトナム
  • 研究プロジェクト

    開発途上地域農業の温室効果ガス排出抑制とリスク回避技術の開発(気候変動対応)

    プログラム名

    資源・環境管理

    予算区分

    交付金気候変動対応

    研究期間

    2018年度(2014~2018年度)

    研究担当者
  • 鈴木 知之 (農研機構 畜産研究部門)
  • Sommart Kritapon (コンケン大学)
  • Arun Phromloungsri (コンケン大学)
  • Angthong Wanna (タイ王国反すう家畜飼養標準研究開発センター)
  • Nguyen Van Thu (カントー大学)
  • Chaokaur Annan (シルパコン大学)
  • Nitipot Peerapot (カラシン大学)
  • 義民 (農研機構 畜産研究部門)
  • 西田 武弘 (帯広畜産大学)
  • 寺田 文典 (東北大学)
  • 酒井 貴志 (宮崎大学)
  • 川島 知之 (宮崎大学)
  • 発表論文等

    Suzuki T et al. (2018) Animal Science Journal, 89:1287-1295 DOI: 10.1111/asj.13058

    日本語PDF
  • PDF icon Download 2018_A01_A4_ja.pdf (308.41 KB)
  • PDF icon Download 2018_A01_A3_ja.pdf (247.34 KB)
  • English PDF
  • PDF icon Download 2018_A01_A4_en.pdf (221.54 KB)
  • PDF icon Download 2018_A01_A3_en.pdf (265.33 KB)
  • ポスターPDF
  • PDF icon Download 2018_A01_poster.pdf (345.89 KB)