熱帯における水田からのメタン発生制御技術の開発

要約

熱帯地域での水田からのメタン発生制御技術を検討した結果、圃場残存有機物の酸化的分解の促進や、有機物肥料の堆肥化など、易分解性有機物量を減少させる有機物管理技術が効果的であることが示された。

背景・ねらい

地球温暖化に関与する大気中の急激なメタン(CH4)濃度増加の原因のひとつとして、世界的な水田耕作面積の増加があげられている。熱帯地域には世界の水田面積の70%以上が分布しているとともに、高温であることからメタン発生強度が大きく、熱帯の水田から発生するメタンが地球全体の農耕地起源のメタンに占める割合は大きいと考えられる。本研究では、熱帯湿潤農地、とくに熱帯水田におけるメタン発生量を評価するとともに、発生のメカニズムを解明し、生成抑制技術の開発を行うことを目的とした。

成果の内容・特徴

  1. タイ国内各地の9地点の水田で測定された水稲栽培期間のフラックスの平均値は、1.1-23.0mgm-2hr-1の範囲であり、地点によりメタン発生量に大きな違いのあることが明らかになった(表1)。メタン発生量と土壌の有機物含量や理科学性、あるいは水稲収量との間には有意な相関はみられなかった。
  2. ポット試験では、湛水前の土壌に0.2%(W/W)の稲わらを混入することによりメタン発生量は3.8-10.4倍増加することが示された。その際、稲わら無混入区では栽培後期に大きなメタン発生量が見られたのに対し、稲わら混入区では栽培初期に最も大きなメタン発生が見られた(図1)。
  3. マレイシアにおける有機物施用の試験では、緑肥(セスバニア)の施用がメタン発生量を高めたのに対し、有機物資材(ヤシ油残査(POME)、および有機物被覆化学肥料(complehumus)の場合は、資材施用直後であったcomplehumus区の出穂期初期を除きメタン発生に対し大きな影響はみられなかった(図2)。
  4. 以上の結果、熱帯水田における稲わら緑肥などの新鮮有機物の施用が、きわめて大きなメタン発生量の増大効果を持つことを示している。このことから、熱帯地域での水田からのメタンの発生制御技術として、圃場残存有機物の酸化的分解の促進や、有機物肥料の堆肥化など、新鮮有機物量を減少させることが重要であることが 示唆された。

成果の活用面・留意点

熱帯地帯における水田からのメタン発生量の推定とメタン発生制御技術の開発に有効に活用される。

具体的データ

  1. 表1 タイの水田からのメタン発生量 

    表1
  2. 図1
    図1 稲わらの施用がメタン発生に及ぼす影響(タイ)
  3. 図2
    図2 緑肥と有機物資材の施用がメタン発生に及ぼす影響(マレイシア)
Affiliation

国際農研 環境資源部

農業環境技術研究所

分類

国際

予算区分
地球環境研究費
研究課題

湿潤熱帯農地におけるメタンの生成メカニズムと生成抑制技術の開発

研究期間

1995年度(1991~1995年度)

研究担当者

八木 一行 ( 環境資源部 )

加藤 邦彦 ( 環境資源部 )

村山 重俊 ( 農業環境技術研究所 )

鶴田 治雄 ( 農業環境技術研究所 )

捷行 ( 環境資源部 )

ほか
発表論文等

Yagi, K. et al. (1994) Methane emission from rice paddy fields in the central plain of Thailand. Soil Sci. Plant. Nutr., 40, 29-37. 

日本語PDF

1995_06_A3_ja.pdf1.04 MB

関連する研究成果情報