研究成果

イネの光合成機能を増強し、最大3割の増収

関連プログラム
農産物安定生産

令和2年2月19日

東北大学大学院農学研究科(教授 牧野 周、助教 石山 敬貴)
岩手大学農学部(准教授 鈴木 雄二)
国立研究開発法人国際農林水産業研究センター (国際農研)
生物資源・利用領域(主任研究員 小原 実広)

 

イネの光合成機能を増強し、最大3割の増収

発表のポイント

  • 急激な人口増加によって、世界的な食糧危機が懸念されている。人類は緑の革命注1と呼ばれた作物の短稈種注1の育成に成功し、多量の窒素肥料の投与による食糧の増産を実現させてきた。しかし、多量の窒素肥料投与は深刻な環境汚染の原因になっている。
  • 食糧危機と環境問題を解決するためには、同じ窒素肥料投与量に対してより高い収量を示す穀物を作出しなければならない。
  • 東北大学、岩手大学、国際農研の共同研究グループは、光合成の炭酸固定酵素ルビスコ注2が約1.3倍量に増強された遺伝子組換えイネを隔離水田ほ場に供し、収量調査試験を行った。その結果、組換えイネは、同じ窒素施肥量に対して最大で28%の増収効果があることを確認した。光合成の機能改善により、窒素利用効率が向上し、収量の増加に結び付いた実例は世界初である。

概要

国際連合食糧農業機関は、世界人口の増加に伴う深刻な食糧危機に警鐘を鳴らしています。一方で、人類は1960年代にイネやコムギの主要穀物において「緑の革命」と呼ばれる短稈種の開発に成功し、多量の窒素施肥に依存した増収を図ってきました。しかし、多量の窒素施肥は、環境汚染の原因となり、大きな社会問題となっています。これからは、単に高い収量性を示す穀物を育種するのではなく、同じ窒素施肥量に対して、より高い収量性を示す穀物を開発することが喫緊の課題です。東北大学大学院農学研究科 牧野 周(まきの あまね)教授、石山 敬貴(いしやま けいき)助教らの研究グループは、岩手大学農学部および国際農研との共同研究で、遺伝子組換え技術によって光合成の炭酸固定酵素ルビスコが約1.3倍量に増強されたイネ(ルビスコ増強イネ)を作出し、東北大学内にある隔離水田ほ場において収量評価試験を行いました。その結果、ルビスコ増強イネは、同じ窒素施肥量において、玄米収量が最大で28%増加しました。高い窒素利用効率と光合成の機能改善により、穀物の増収に結び付いた実例は、世界で初めてです。この研究成果は、世界的な食糧危機回避と地球環境保全に大きく貢献するものと評価されています。

本研究の成果は、2020年2月18日、国際科学誌Nature Food 1巻2月号に発表されました。

問い合わせ先

東北大学大学院農学研究科 
担当1 牧野 周
E-mail amanemakino@tohoku.ac.jp

担当2 石山 敬貴
E-mail keiki.ishiyama.e5@tohoku.ac.jp

専門用語説明

注1; 「緑の革命」と「短稈種」
1960年代、人類の主要作物であるイネとコムギにおいて、短稈育種が行われた。人間の背丈ぐらいあった両作物は腰の高さぐらいまで小型化された短稈種の開発に成功、短稈種は倒伏に対して耐性を持ったことから、多量の窒素施肥を可能とした。今日までのイネとコムギの増収は、短稈種の導入による多肥に依存したもので、緑の革命と呼ばれている。ハーバー・ボッシュ法の普及により、空気中の窒素から安価なアンモニア肥料が生産可能となった背景も見逃せない。多量の窒素施肥は、葉の窒素含量を増加させ、その窒素含量の増加によって光合成能力を増大にさせる効果があり、同時に穂数や籾数の増加効果もあるため、イネやコムギの増産に直接結びつくものであった。
注2; 「ルビスコ」
光合成のCO2固定を触媒する酵素で、現在の大気CO2濃度では、植物の光合成全体の速度を決定していると考えられている。一般的に植物の葉の可溶性タンパク質の50%ほどを占め、地球上で最も多く存在するタンパク質であると推定されている。

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