研究成果
オイルパーム古木中の炭水化物量を決定する要因を同定
― 廃棄されるオイルパーム古木の効率的な利用に貢献 ―
令和2年2月21日
国際農研
オイルパーム古木中の炭水化物量を決定する要因を同定
― 廃棄されるオイルパーム古木の効率的な利用に貢献 ―
ポイント
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国際農研とマレーシア理科大学の共同研究チームはパーム古木中に蓄積される光合成由来の炭水化物量を変動させる環境要因を特定しました。果房の生産効率低下のために約25年で伐採されるパーム古木は農園内に放置され、土壌病害や温室効果ガスの発生源となっています。パーム古木を有効活用することにより、環境問題の解決に繋がりますが、バイオガスや生分解性素材などを製造するためには、パーム古木が非構造性の炭水化物をより多く蓄積していることが望まれます。そこで、光合成で生産される物質の貯蔵先である幹中の非構造性炭水化物(デンプン及び遊離糖)1) や果房量と気温や雨量との関係性を解析し、マレーシア国ペナン州の調査地においては僅かに低温が続き、降水量が多い時期に非構造性炭水化物量が増加することを明らかにしました。
本研究成果は、2020年1月20日に国際科学雑誌「Scientific Reports(IF=4.011)」電子版に掲載されました。
<関連情報>
予算:運営費交付金、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「オイルパーム農園の持続的土地利用と再生を目指したオイルパーム古木への高付加価値化技術の開発」
発表論文
- 論文著者
- Tani N, Abdul Hamid ZA, Joseph N, Sulaiman O, Hashim R, Arai T, Satake A, Kondo T and Kosugi A
- 論文タイトル
- Small temperature variations are a key regulator of reproductive growth and assimilate storage in oil palm (Elaeis guineensis)
- 雑誌
- Scientific Reports (2020) 10, Article number: 650
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-019-57170-8
問い合わせ先など
国際農研(茨城県つくば市)理事長 岩永勝
研究推進責任者:プログラムディレクター 山本由紀代
研究担当者:林業領域 谷尚樹、生物資源・利用領域 小杉昭彦
広報担当者:企画連携部 情報広報室長 山﨑正史
Tel:029-838-6708 FAX:029-838-6337 プレス用 e-mail:koho-jircas@ml.affrc.go.jp
本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会に配付しています。 |
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研究の社会的背景と経緯
パーム油は世界で産出される植物油の約40%を占めており、その85%がマレーシアとインドネシアの2カ国で生産されていますが、エルニーニョ現象の際に生じる高温や雨量低下による強い水ストレスがパーム果房の生産性に影響する他、季節変化の乏しい熱帯においてもパーム果房の生産量に季節性の周期があることが知られています。一方で、果房の生産性の低下により約25年で伐採されるパーム古木の多くは、農園内に放置され、病害虫の温床になるほか、未利用のまま分解されることにより、温室効果ガスの発生源となっています。パーム古木中に含まれる樹液はバイオ燃料や生分解性素材の良質な資源となりますが、伐採された古木から得られる樹液の糖度は一定ではなく、その変動要因の解明が求められていました。そこで、光合成で生産される物質の貯蔵先である幹中の非構造性炭水化物(デンプン及び遊離糖)やパーム果房量と気温や雨量との関係性に着目し、パーム古木から高糖度の樹液を得るため、非構造性炭水化物量に影響を及ぼす環境要因の解明に取り組みました。
(研究の)内容・意義
2012年10月から2016年3月にかけてマレー半島北部のオイルパーム農園において、植栽後20年以上経過したパーム古木中の遊離糖及びデンプン量、果房の容積を毎月計測しました。これらの変動と、近隣の気象測候所で観測されたデータから算出した積算温度及び積算雨量の因果関係を経験的動態モデリング手法2) を用いて調べました(図1、2)。パーム果房の容積は12月頃から増加を開始し、翌年6月頃に最大となり、その後、成熟パーム果実が落下する周期が観察されました。また、パーム果房の容積増加開始前の9月〜12月頃にパーム古木中の遊離糖の増加が見られましたが、デンプン量の増加は明瞭ではありませんでした。経験的動態モデリングで因果関係を調べたところ、パーム果房の容積とパーム古木中の遊離糖量に最も強い因果関係がみられ、パーム果房が成熟すると、古木中の遊離糖量が増えることが示唆されました。さらに、積算温度からパーム古木中の遊離糖及びデンプンへは約半年のタイムラグで強い因果関係がありました。これは、積算気温が低い時期に遊離糖及びデンプンの量が増加することを意味します。一方、積算雨量とパーム古木の遊離糖やデンプン量にはほぼタイムラグなしで強い因果関係が見られ、積算雨量の増加と共に遊離糖やデンプン量が増加していました。
ここで示された果房量や環境要因との因果関係から、本解析を実施したマレー半島北部では、果房量が少なく、積算温度が低下すると共に積算雨量が増加する10月~12月にパーム古木の遊離糖やデンプン量が増加しており、この時期に伐採を行うことで非構造性炭水化物の含有量の多いパーム古木を収穫できることがわかりました。
今後の予定・期待
伐採され農園内に放棄されるパーム古木は、豊富な非構造性炭水化物を含んでいます。これらをバイオガスやバイオエタノール、生分解性素材の製造等に活用することは、パーム産業の収益性を向上させ、持続的で環境負荷の低いオイルパーム栽培に貢献します。さらに、放棄されたパーム古木から排出される温室効果ガスを減少させることにより、気候変動の緩和への貢献も期待されます。
熱帯モンスーン地域など乾期の存在する地域やピートスワンプと呼ばれる湿地を開墾したパーム農園など、環境の異なるパーム農園においてもパーム幹中の非構造性炭水化物量の変動要因を明らかにすることで、地域や環境に即した収穫適期の同定が可能になります。