カンボジアで水田メタン排出削減プロジェクトが始動
―アジアモンスーン地域への展開、国際ルールメイキングに挑む―
令和6年9月30日
国際農研
農研機構
東京学芸大学
東京農業大学
北海道大学
九州大学
カンボジアで水田メタン排出削減プロジェクトが始動
―アジアモンスーン地域への展開、国際ルールメイキングに挑む―
ポイント |
概要
国際農研は、令和6年9月26日 (木)、カンボジア王国の首都プノンペン市にて、SATREPSの枠組みによる「水田メタン排出削減プロジェクト」の発足記念式典を開催しました。
本プロジェクトは、我が国のODAにより灌漑排水施設が整備されたプルサット州ダムナック・アンピル灌漑地区を対象に、水稲の収量を維持しながらメタン排出を抑制する広域的な水管理手法と温室効果ガス削減量をモニタリング・評価する手法を開発します。開発した成果は、二国間クレジット制度 (JCM) に活用し、カンボジアが自ら決定する温室効果ガス削減目標 (NDC3)) の達成に貢献することを目指しています。
主なプロジェクト概要は、以下のとおりです。
- 研究課題名:トンレサップ湖西部水田における広域的水田水管理システムの確立による温室効果ガス排出削減技術の開発と社会実装
- 実施期間:令和6年4月から5年間
- 日本側代表機関:国際農研
- カンボジア側代表機関:王立農業大学
- 共同研究機関:日本側5機関 (農研機構、東京学芸大学、東京農業大学、北海道大学、九州大学)、カンボジア側1機関 (カンボジア工科大学)
- 協力機関:日本側4機関 (国際農林業協働協会、Green Carbon株式会社、株式会社クボタ、アースシフトグローバル・アジア合同会社)
記念式典は、カンボジア農林水産省事務総長、王立農業大学学長、カンボジア工科大学副学長、在カンボジア日本国大使館書記官、JICAカンボジア事務所次長、農林水産省農村振興局整備部設計課海外土地改良技術室長、国際農研理事、農研機構・農村工学研究部門研究推進部長らが出席し、祝辞ならびにプロジェクトへの期待が示されるとともに、研究成果の発現と社会実装を達成するために両国関係者が協力・連携して取り組むことが確認されました。
プロジェクトの発足を記念して、9月27日 (金)には日本、カンボジア、ベトナム、ラオスの専門家や国際機関 (アジア開発銀行、メコン河委員会) が参加する国際ワークショップも開催されました。これにより、開発された技術の成果がアジアモンスーン地域に展開されること、さらに、国際ルールメイキングのためのネットワーク構築が期待されます。
カンボジアをはじめとするアジアモンスーン地域では水稲作が盛んで、水田から発生するメタンが主要な温室効果ガスの排出源となっています。国際農研は、日本政府が推進する「みどりの食料システム戦略」、「日ASEANみどり協力プラン4)」、さらには「グローバル・メタン・プレッジ5)」などを踏まえ、農業分野における気候変動緩和策として、アジアモンスーン地域における間断灌漑による水田メタン排出削減の更なる普及・社会実装を目指した研究を実施していきます。
問い合わせ先など
国際農研 (茨城県つくば市) 理事長 小山 修
- 研究推進責任者:
- 国際農研 プログラムディレクター 林 慶一
- 研究担当者:
- 国際農研 農村開発領域 泉 太郎、渡辺 守、進藤 惣治
国際農研 生産環境・畜産領域 南川 和則 - 広報担当者:
- 国際農研 情報広報室長 大森 圭祐
プレス用 e-mail:koho-jircas@ml.affrc.go.jp
用語の解説
- 1) SATREPS
- 国立研究開発法人科学技術振興機構ならびに国立研究開発法人日本医療研究開発機構と独立行政法人国際協力機構(JICA)が共同で実施する、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)の略称です。地球規模課題の解決に繋がる新たな知見の獲得及び社会実装を目指し、我が国の研究機関と開発途上国の研究機関とが協力して技術協力プロジェクトの枠組みにより国際共同研究を推進するものです。
- 2) 間断灌漑
- 農地への給水を間断的に行う灌漑方法です。連続灌漑が基本である水田においても稲の生育時期に応じて実施されることがあります。国際稲研究所 (IRRI) が推奨しているAWD (Alternate Wetting and Drying) や日本で行われている中干しは間断灌漑の一種です。
- 3) NDC
- 国が決定する貢献 (Nationally Determined Contribution)。2015年に開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議で合意されたパリ協定に基づき、各国が温室効果ガス削減目標を策定し、国連気候変動枠組み条約事務局に提出します。
- 4) 日ASEANみどり協力プラン
- 世界で食料の安定供給への懸念が高まる中、ASEAN地域 (東南アジア) における強靭で持続可能な農業・食料システムの構築、ひいてはASEAN地域の食料安全保障に貢献するため、我が国の技術や経験を生かした協力プロジェクトを進めるものです。
- 5) グローバル・メタン・プレッジ
- 米国と欧州連合が主導するメタン削減のための国際的な枠組みで、世界の人為的メタン排出量を2030年までに2020年比で30%削減することを目標としています。国連気候変動枠組条約第26回締約国会議で発足し、日本を含め100を超える国・地域が参加しています。