研究成果
植物に乾燥・高温耐性を付与する転写因子DREB2Aが活性化する仕組みを解明
–干ばつや高温に強い作物の開発に期待 –
平成29年9月19日
東京大学
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
理化学研究所
国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
植物に乾燥・高温耐性を付与する転写因子1) DREB2Aが活性化する仕組みを解明
― 干ばつや高温に強い作物の開発に期待 ―
概要
東京大学と理化学研究所及び国際農林水産業研究センターの共同研究グループは、植物の干ばつと高温の両方の耐性獲得に働く転写因子1) DREB2Aの活性化の機構の解明に成功しました。植物は、高温や乾燥などの環境ストレスを受けると、多数の耐性遺伝子の発現を誘導することにより耐性を獲得します。干ばつと高温の複合ストレス下では、植物は蒸散による体温の低下の仕組みを働かせることができなくなることから、大きなダメージを受けます。DREB2Aは高温と乾燥の両方のストレスに応答して活性化することから、この複合ストレス時に重要な機能を示します。DREB2Aはそのままでは活性を示しませんが、DREB2Aの構造からNRDと名付けられた中央部のアミノ酸配列を除くと、安定な活性型(DREB2A CA)に変換され、これを植物に導入すると乾燥と高温の両方のストレスに対する耐性が向上します。しかし、このDREB2A CAの活性化の分子機構は、10年以上不明なままでした。本研究によって、NRDはタンパク質の分解系であるBPM-CUL3 E3リガーゼ 2) が認識して結合する配列であり、その結合によりDREB2Aの分解機構が働くことが明らかになりました。DREB2A CAはNRDを持たないため、BPM-CUL3 E3リガーゼによって認識されず分解されないため安定化します。このように、NRDを除くとDREB2A CAが安定化して活性型に変換される機構が解明されました。植物中ではストレス時特異的にリン酸化などの修飾や未知のタンパク質によってNRDがマスクされる機構が考えられます。この研究により、植物の高温や乾燥ストレスに対する耐性獲得機構の理解が進むとともに、高温や干ばつに対する耐性を向上させた作物の開発への応用が期待されます。
なお、この研究成果の詳細は、日本時間9月19日4時 (アメリカ東部標準時:18日15時)に米国の科学誌Proceedings of the National Academy of Sciences USA にオンライン掲載されます。
発表論文
<論文著者>#Kyoko Morimoto, #Naohiko Ohama, Satoshi Kidokoro, Junya Mizoi, Fuminori Takahashi, Daisuke Todaka, Junro Mogami, Hikaru Sato, Feng Qin, June-Sik Kim, Yoichiro Fukao, Masayuki Fujiwara, Kazuo Shinozaki, Kazuko Yamaguchi-Shinozaki
#These authors contributed equally to this work.
<論文タイトル>BPM-CUL3 E3 ligase modulates thermotolerance by facilitating negative regulatory domain-mediated degradation of DREB2A in Arabidopsis
<雑誌>Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2017) DOI:10.1073/pnas.1704189114
お問い合わせ先
東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 植物分子生理学研究室
教授 篠崎 和子(しのざき かずこ)
E-mail:akys<at>mail.ecc.u-tokyo.ac.jp<at>を@に変えてください。
用語の解説
- 1) 転写因子
- 標的とする遺伝子のプロモーター配列(DNA)に結合し、その遺伝子の発現を活性化したり抑制したりして調節するDNA結合性タンパク質。DREB2Aは高温及び乾燥ストレス誘導性遺伝子発現の活性化因子として働いている。
- 2) BPM-CUL3 E3リガーゼ
- CUL3 E3リガーゼは、RING-finger型E3リガーゼであり、E1、E2と共に標的タンパク質のユビキチン化 3) を触媒する。BPMは基質認識サブユニットを形成する。
- 3) ユビキチン化
- タンパク質修飾の一種で、ユビキチンリガーゼの働きにより基質タンパク質に付加される。多くの場合、ユビキチン自身もさらに重合しポリユビキチン鎖を形成する。ポリユビキチン修飾されたタンパク質は、プロテアソームにより認識され分解される。
*本プレスリリースの詳細については、東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部のホームページ(http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2017/20170919-1.html)でご覧頂けます。