国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

研究成果

高温で働く植物の遺伝子スイッチがデザイン可能に ―目的の遺伝子発現を温度でコントロール―

関連プログラム: 
第4期中長期計画農産物安定生産

ドキュメントファイル: 

プレスリリース

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平成28年11月17日
国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
国立大学法人岐阜大学
岐阜聖徳学園大学
国立研究開発法人理化学研究所
国立大学法人高知大学
国立大学法人東京大学

高温で働く植物の遺伝子スイッチ1)がデザイン可能に
―目的の遺伝子発現を温度でコントロール

ポイント

  • 高温特異的に機能する植物の遺伝子スイッチのデザインが可能になった。
  • この遺伝子スイッチで目的遺伝子の発現を温度(高温)で制御することが可能になった。
  • 高温耐性作物や高付加価値作物の開発への利用が期待される。

概要

国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(JIRCAS)、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、国立大学法人岐阜大学、岐阜聖徳学園大学、国立研究開発法人理化学研究所、国立大学法人高知大学、国立大学法人東京大学は、植物のゲノム2)を網羅的に比較解析することで、世界で初めて高温で特異的に働く遺伝子スイッチのデザイン(DNA配列の最適化)を可能にしました。高温で特異的に機能する遺伝子スイッチの研究は基礎生物学への貢献だけでなく、将来的には、高温障害が懸念される地域の作物開発や、温度管理された植物工場で栽培される高付加価値な作物開発へ活用されることが期待されます。

本研究成果は、英国で発行している国際科学専門誌「The Plant Journal」電子版(日本時間2016年11月17日7時)に掲載されました。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発の予算により行われました。

発表論文

<論文著者>Kyonoshin Maruyama, Takuya Ogata, Norihito Kanamori, Kyouko Yoshiwara, Shingo Goto, Yoshiharu Y. Yamamoto, Yuko Tokoro, Chihiro Noda, Yuta Takaki, Hiroko Urawa, Satoshi Iuchi, Kaoru Urano, Takuhiro Yoshida, Tetsuya Sakurai, Mikiko Kojima, Hitoshi Sakakibara, Kazuo Shinozaki, and Kazuko Yamaguchi-Shinozaki

<論文タイトル>Design of an optimal promoter involved in the heat-induced transcriptional pathway in Arabidopsis, soybean, rice, and maize.

<雑誌>The Plant Journal (2016) DOI: 10.1111/tpj.13420

問い合わせ先など

国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(茨城県つくば市)

理事長 岩永 勝

研究推進責任者:プログラムディレクター 中島一雄

研究担当者:生物資源・利用領域 主任研究員 圓山恭之進

広報担当者:企画連携部 情報広報室長 辰巳英三

Tel 029-838-6708 FAX 029-838-6337 プレス用 e-mail:koho-jircas@ml.affrc.go.jp

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(茨城県つくば市、静岡県静岡市)

研究担当者:後藤新悟

国立大学法人岐阜大学(岐阜県岐阜市)

研究担当者:山本義治

岐阜聖徳学園大学(岐阜県岐阜市)

研究担当者:浦和博子

国立研究開発法人理化学研究所(茨城県つくば市、神奈川県横浜市)

研究担当者:篠崎一雄

国立大学法人高知大学(高知県南国市)

研究担当者:櫻井哲也

国立大学法人東京大学(東京都文京区)

研究担当者:篠崎和子

本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会に配布しています。

研究の背景と経緯

JIRCASでは熱帯及び亜熱帯に属する地域やその他開発途上地域における農林水産業に関する技術向上のため、様々な環境に適した農産物の開発やバイオエネルギーの安定生産等に貢献するための研究を行っています。具体的には、気候変動による温暖化にも対応できる農作物や健康志向等にも対応できる付加価値の高い農作物等、多様化した生産者・消費者ニーズに即した農作物開発を進めるための研究を行っています。

これまで、モデル植物であるシロイヌナズナ3)においては、様々な視点から高温応答の研究が行われてきました。しかし、分子生物学的な解析が難しい農作物においては、高温応答に関する研究例は少なく、特に高温で遺伝子発現を調節する遺伝子スイッチの研究は限定されていました。そのため、モデル植物で行われてきた高温応答の研究を農作物の育種に活用することは難しい状況でした。しかし、近年、シロイヌナズナだけでなく、様々な農作物のゲノム情報、ゲノム編集技術、オミックス解析4)等が以前より利用しやすくなったため、これら最新技術・情報を活用した育種が行われ始めています。共同研究グループでは、モデル植物のシロイヌナズナだけでなく、ダイズ、イネ、トウモロコシといった作物のゲノムを網羅的に比較解析して、遺伝子発現を調節する遺伝子スイッチのデザインに取り組んできました。

研究の内容・意義

  1. 4種(シロイヌナズナ、ダイズ、イネ、トウモロコシ)の転写調節領域におけるDNA配列の特徴を網羅的な比較解析で明らかにして、高温だけで働く遺伝子スイッチのデザインを行いました(図1)。
  2. 高温で働く遺伝子スイッチには、それぞれの植物に特徴的な熱ショックエレメント5)と呼ばれる配列が含まれることがわかりました。
  3. 高温で働く遺伝子スイッチに含まれる熱ショックエレメントは、低温や乾燥などの環境ストレスに対する応答や、発生や分化に関与する遺伝子のスイッチとしても機能することが示唆されていましたが、本研究では高温だけで働く遺伝子スイッチがデザインできました。
  4. 本研究でデザインしたスイッチは、赤外線レーザー照射でも機能することがわかったので、調べたい細胞(例えば気孔の細胞)だけにレーザー照射を行い、目的遺伝子を発現させることで、個々の細胞で特異的に機能する遺伝子の解析や細胞間相互作用の解析にも活用できることがわかりました。

今後の展望

  1. 本研究でデザインした遺伝子スイッチは、ゲノム編集6)技術等を利用することで、高温耐性遺伝子を制御することが可能なので、気候変動による温暖化に対応した農作物の開発に活用されることが期待できます。
  2. 本研究でデザインされた遺伝子スイッチは、植物工場の温度管理だけで、一過的に遺伝子発現を調節することが可能なため、例えば、出荷前に温室の温度をあげることで、高付加価値が期待できる遺伝子(高ビタミン含量に関連する遺伝子等)の発現を制御できるため、健康志向等のニーズに対応した農作物の開発に活用されることが期待できます。一過的な遺伝子発現調節は、恒常的に遺伝子が機能すると起こり得る成長抑制等の副作用を抑えることができます。

用語の解説

  1. 遺伝子スイッチ:遺伝子発現を調節するDNA配列。遺伝子発現を調節するタンパク質が結合する領域(シスエレメント)を含む。
  2. ゲノム:ある生物の全染色体を構成するDNAの全塩基配列に含まれる情報の全体。
  3. シロイヌナズナ:温帯から亜寒帯に広く分布するアブラナ科の一年生の草木。2000年に高等植物で初めて全ゲノム配列が解読されたモデル植物。
  4. オミックス解析:生物に存在する分子全体を網羅的に解析する方法。トランスクリプトーム(全転写産物の集合)、プロテオーム(全タンパク質の集合)、メタボローム(全代謝産物の集合)等を解析方法がある。
  5. 熱ショックエレメント:高温で働く遺伝子の発現調節を行うタンパク質が結合するDNA配列。
  6. ゲノム編集:特定のDNA配列を認識して変異を入れることができる酵素を利用して、DNA配列を改変する技術。

    図1.高温で特異的に働く遺伝子スイッチ
    図1.高温で特異的に働く遺伝子スイッチ

    4種(シロイヌナズナ、ダイズ、イネ、トウモロコシ)の高温で働く遺伝子の転写調節領域のDNA配列の特徴を明らかにして、高温特異的な遺伝子スイッチのデザインを行った。デザインした遺伝子スイッチの高温特異性はβ-グルクロニダーゼが活性化すると青色に染色できる特徴を利用して調べた。