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研究成果

東南アジア熱帯雨林の「一斉開花」現象の予測に成功 ― ラワン材の安定生産と気候変動への林業の適応策に貢献 ―

関連プログラム: 
第4期中長期計画高付加価値化

ドキュメントファイル: 

  • 国立大学法人九州大学

平成29年7月27日
国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター
国立大学法人 九州大学

 

東南アジア熱帯雨林の「一斉開花1)」現象の予測に成功
― ラワン材の安定生産と気候変動への林業の適応策に貢献 ―

  • ラワン材として広く利用されているフタバガキ科樹種2)の「一斉開花」を気温と降水量から正確に予測
  • 乾燥と低温が引き金となり9~11週間後に開花遺伝子3)が発現、その後1か月程度で一斉開花することが明らかに
  • 苗木の安定供給や気候変動に適応した林業の構築に期待

概要

国立研究開発法人 国際農林水産業研究センターと九州大学はマレーシアのマラヤ大学、マレーシア森林研究所、マレーシア工科大、首都大学東京、高知大学、広島大学、森林総合研究所と共同で、東南アジアの熱帯雨林に特徴的に見られる「一斉開花」現象を予測するモデルを開発しました。一斉開花は不定期に発生し予測が困難であったため、天然種子の採種に依存したフタバガキ科樹種(ラワン材)の実生苗木を計画的に生産できませんでした。本研究により、気象条件による開花遺伝子発現の動態が明らかとなり、気温と降水量から一斉開花の地域や時期を予測できるようになります。この成果は、実生苗木の安定生産や木材の安定供給に貢献すると期待されます。また、気候変動に応じた一斉開花の変化を予測することで森林生態系への影響を予測し、気候変動に適応した林業の施業体系の提案にも役立ちます。

本研究成果は、国際科学専門誌「Molecular Ecology」電子版(日本時間2017年7月27日17時)に掲載されます。

<関連情報>

予算:環境研究総合推進費(H23革新型研究開発領域課題「遺伝子情報に立脚した開花時期予測モデルの開発:一斉開花現象の分子レベルでの解明」、科学研究費助成事業(基盤研究A「開花遺伝子発現量と土壌・植物養分条件の統合分析による一斉開花機構の解明」)

発表論文

<論文著者> Yeoh SH, Satake A, Numata S, Ichie T, Lee SL, Basherudin N, Muhammad N, Kondo T, Otani T, Hashim M and Tani N

<論文タイトル> Unraveling proximate cues of mass flowering in the tropical forests of Southeast Asia from gene expression analyses

<雑誌> Molecular Ecology (2017) DOI: 10.1111/mec.14257

 

問い合わせ先など

国際農林水産業研究センター(茨城県つくば市)理事長 岩永勝
研究推進責任者:プログラムディレクター 山本由紀代
研究担当者:林業領域 谷 尚樹
広報担当者:企画連携部 情報広報室長 辰巳英三
Tel 029-838-6708  FAX 029-838-6337 プレス用 e-mail:koho-jircas@ml.affrc.go.jp

九州大学(福岡県福岡市)
 研究担当者:佐竹暁子
首都大学東京(東京都八王子市)
 研究担当者:沼田真也
高知大学(高知県南国市)
 研究担当者:市栄智明
広島大学(広島県東広島市)
 研究担当者:近藤俊明
森林総合研究所(茨城県つくば市)
 研究担当者:大谷達也

本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会に配布しています。

背景

東南アジアの熱帯雨林ではフタバガキをはじめとする様々な樹種の木々が数年に一度、不定期に一斉に開花・結実する「一斉開花」1) という現象が起きます(図1)。一斉開花は主に低温や乾燥などの環境要因によって起こると考えられていますが、そのメカニズムは解明されておらず、これまで一斉開花を予測することは困難でした。

フタバガキ科の樹種2)は一斉開花を起こす東南アジアの熱帯雨林を構成する代表的な樹種で、熱帯雨林の林冠の約80%を占めています。生態学的に重要な樹種であるばかりでなく、その木材はラワン材として広く利用されています。フタバガキ科の樹種は、天然の種子を採取して実生苗木を生産・植栽して育成されますが、一斉開花は不定期に起こるため、結実する時期や地域は予測できず、さらに、種子を保存できない性質であることから、計画的な苗木生産ができませんでした。また、気候変動により環境要因が変化して一斉開花の発生パターンにも変化が生じれば、フタバガキ科を含む樹木の再生産ばかりでなく動物相の食物連鎖も含めた森林生態系全体への深刻な影響が危惧されます。

このため、一斉開花を引き起こす要因を科学的に検証し、開花を予測することが東南アジアの林業や森林生態系保全の観点から急務となっています。

内容・意義

マレーシア半島部において約4年間に渡り、フタバガキ科林業樹種の一つであるShorea curtisiiとその近縁種であるS. leprosulaの開花をモニタリングすると共に、フタバガキ科の開花遺伝子(FT遺伝子及びLFY遺伝子)3) の葉と芽における発現量を調べました。この間に2回の一斉開花が観測され、いずれも開花の少なくとも1ヶ月前に葉と芽の両方で開花遺伝子の発現が開始されることが分かりました。

調査地の周辺測候所から得た降水量・気温データと開花遺伝子の発現量の変化との関係を数理モデルを用いて調べた結果、一定の乾燥かつ低温の状態(9か日平均気温が25.7°C以下かつ日降水量が182mm以下)が起きたときにのみ、9~11週間後に開花遺伝子が発現し、一斉開花に至ることが明らかになりました。開花遺伝子が発現するための引き金となる気象条件と、一斉開花に至る期間が明らかになったことから、降水量と気温のデータから一斉開花の予測が可能となりました(図2)。

本研究では、一斉開花が起きなかった期間を含む4年間の長期に渡りフタバガキ科樹種の開花と遺伝子発現を観測し続け、さらに長期気象観測データを関連付けることにより、一斉開花の有無を降水量と気温から予測することに成功しました。一斉開花が「起きない」ことも予測しているので、この予測は信頼性の高いものとなります。

今後の予定・期待

これまでは一斉開花の偶然の観測に頼っていたフタバガキ科樹種の種子の収集が、一斉開花の地域と時期を予測することにより、計画的かつ効率的に行えるようになり、苗木の安定生産、ひいては木材の安定供給へと貢献することが期待されます。また、予測される気候変動の下での一斉開花を引き起こす気象条件の頻度の変化を予測し、さらに樹種ごとに僅かに異なる開花特性を他の樹種でも明らかにすることにより、気候変動に適応した樹種の植栽法の開発が期待されます。IPCCによれば熱帯では地球温暖化の影響が中緯度地帯よりも早く現れるといわれており、対応に時間がかかる林業や森林生態系保全ではこのような科学的知見に基づく速やかな対応が求められます。

用語の解説

1) 一斉開花
東南アジアの熱帯林において、多くのフタバガキ科樹種およびマメ科やクスノキ科などの樹種が数年に一度、不定期に、森林レベルで一斉に開花・結実する現象。
2) フタバガキ科樹種
アフリカ、南米、インドから東南アジアにかけて分布する樹木種。東南アジアでは50mを越える巨木に成長し、東南アジア熱帯雨林の主要構成樹種となっています。用材に適している樹種が多く、わが国では総称してラワン材と呼ばれています。
3) 開花遺伝子
植物の開花を制御する遺伝子群の総称。古くから開花を誘導するホルモン(フロリゲン)の存在が指摘されてきましたが、1999年にFT(Flowering locus T)遺伝子がシロイヌナズナで発見され、花芽形成に重要なタンパク質が存在することが明らかになりました。シロイヌナズナでは日長によって発現するCO(CONSTANS)遺伝子によってFT 遺伝子やLFY遺伝子等の発現が誘導され、開花に至ります。本研究ではフタバガキのFTとLFYの発現を調べました。
図1. フタバガキ科樹種の開花結実

図1. フタバガキ科樹種の開花結実

図2. フタバガキの一斉開花予測モデルの開発手順

図2. フタバガキの一斉開花予測モデルの開発手順

葉・花芽のモニタリングと発現遺伝子解析を行い、降水量・気温データと関連付ける数理モデルを開発した。