マダガスカル中央高地の水田土壌の有機炭素含量は土壌化学性によって規定される
背景・ねらい
土壌は大気中の二酸化炭素を吸収する陸域最大の炭素貯蔵庫である。そのため、土壌に蓄積した有機炭素(SOC)が長く安定して存在するメカニズムを理解することは、地球温暖化対策に重要である。これまで、SOC貯留には土壌の細粒質画分の総量が重要な要因であると考えられてきたが、熱帯の畑地土壌では、酸性シュウ酸塩溶液で抽出される反応性の高いアルミニウム(活性Al)および鉄(活性Fe)が多いほどSOCが安定的に蓄積することが明らかとなってきた。一方、水田土壌は、季節的な湛水と落水によって酸化還元が繰り返されるためFeやAlなどの無機元素の挙動が複雑であることから、畑地土壌に比べてSOCの安定化機構の理解が遅れている。また、熱帯・亜熱帯地域、特にサブサハラアフリカでは、SOCの安定化機構に関する実測データが乏しく、土壌母材の異なる水田を横断的に比較した研究は極めて少ない。
そこで本研究では、マダガスカル中央高地の6地域・306水田圃場から採取した土壌を対象とし、SOCの安定性を規定する要因を構造方程式モデルによって解析する。火山の影響を強く受けている火山性土壌から、活性Alと活性Feの含量が低い非火山性土壌まで土壌母材が異なる土壌が横断的に含まれており、サブサハラアフリカの熱帯水田土壌における初の大規模比較研究である。
成果の内容・特徴
- 対象とした水田土壌のSOC含量は、0.3~13.4%と幅広く、土壌の細粒質画分の総量である粘土+シルト含量(r = 0.61)よりも、反応性の高い活性Alと活性Feの総量(r = 0.90)と高い正の相関を示す(図1)。
- 活性Feより活性Alが多い活性Al優占土壌(主に火山性土壌)では、活性AlのみがSOCの安定化に寄与する(図2上段)。一方で、活性Alよりも活性Feが多い活性Fe優占土壌(主に非火山性土壌)では、活性Alと活性Feの両方がSOCの安定化に寄与する(図2下段)。すなわち、活性Alと活性Feの相対的バランスが熱帯水田土壌におけるSOCの安定化の決定因子となっていることを初めて実証した。
- 活性Al優占土壌と活性Fe優占土壌のいずれにおいても、SOC含量は土壌pHと負の相関を持つ(図2)。すなわち、土壌pHが上昇すると水田のSOC含量が低下する。
成果の活用面・留意点
- マダガスカル中央高地における水田土壌のSOCの安定化には、火山の影響の有無や、土壌pH、活性Alと活性Feの総量および存在比といった地球化学的要因が重要であることを明確に示し、熱帯・亜熱帯地域の水田土壌がもつ炭素隔離ポテンシャルの予測精度向上に活用できる。
- 土壌改良に伴う人為的なpH上昇はSOC含量の低下を引き起こす可能性があることから、熱帯の酸性土壌においてpH矯正とSOC貯留を両立するための有機物投入などを組み込んだ肥培管理設計に活用できる。
- 本研究の成果は、マダガスカル中央高地と同様の母材・気候帯・水管理体系をもつ熱帯・亜熱帯地域の水田土壌に適用可能である。
- 一方で、湛水期間の長い3期作水田や、氾濫原のような堆積物によって土壌の特性が変わりやすい水田などでは、追加データによる検証が不可欠である。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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受託 » JST/JICA SATREPS » 肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上
- 研究期間
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2017~2022年度
- 研究担当者
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西垣 智弘 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0002-6669-803X科研費研究者番号: 80795013岡本 卓哲 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0003-4506-473X辻本 泰弘 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0001-7738-9913科研費研究者番号: 20588511アウンゾーウー ( 生産環境・畜産領域 )
Lyu Han ( 東京農工大学 )
ORCID ID0000-0001-7778-3654科研費研究者番号: 20945349Rakotonindrina Hobimiarantsoa ( アンタナナリボ大学 )
ORCID ID0000-0001-5857-9471Andriamananjara Andry ( アンタナナリボ大学 )
ORCID ID0000-0001-5372-7359Razafimbelo Tantely ( アンタナナリボ大学 )
ORCID ID0000-0003-2101-9715Rakotoarisoa Njato Mickaël ( マダガスカル国立農村開発応用研究センター )
ORCID ID0000-0001-5857-9471 - ほか
- 発表論文等
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Nishigaki et al. (2025) Environmental Research 284: 122277https://doi.org/10.1016/j.envres.2025.122277
- 日本語PDF
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2025_B16_ja.pdf1.41 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。