西アフリカの群生相化したサバクトビバッタは産卵直前に雌雄が合流
背景・ねらい
サバクトビバッタ(Schistocerca gregaria、以下バッタ)は、アフリカ等でしばしば大発生し農作物に深刻な被害を及ぼす。低密度下では孤独相と呼ばれる状態で点在して生活しているが、生息密度が高まると群れで生活する群生相に相変異する。群生相化した集団は長距離移動し、農作物などに大きな被害を及ぼす。バッタに対しては、殺虫剤の直接散布が主な防除技術として活用されているが、生息地における行動パターンは詳しくわかっていないため、効率よく殺虫剤を散布できていない。発生地である西アフリカのモーリタニアのサハラ砂漠において、バッタの集団形成行動を解明することで、効率的な殺虫剤散布方法の開発が期待できる。
成果の内容・特徴
- 9月から12月にかけて2014年を除く9年間、野外調査を行った結果、日中、性成熟し群生相化したバッタは、雌雄どちらかに性比が偏った群れ(メス群、オス群)を形成している(図1左)。
- メス群では、ほとんどの個体が交尾していない。一方、オス群では、メスは産卵直前の大きな卵を持っており、ほとんどが交尾している(図1右)。
- オス群に産卵直前のメスが飛来する。(図2)、その後、交尾し、夜間にペアのままで集団産卵する(図3)。
- すなわち、アフリカで群生相化したバッタは雌雄がそれぞれの性に偏った集団を形成しているが、夕方、産卵直前のメスがオス群に飛来して交尾し、夜間に集団で産卵する(図4)。
成果の活用面・留意点
- 産卵中のペアは狭い範囲に集合し、その場に数時間留まるため、夜間の集団産卵のタイミングを見計らって集中的に農薬を散布することで、必要以上に農薬を使用しない、環境や健康に配慮した防除に結び付くことが期待される。
- メス群、オス群の集団間の距離と産卵後の移動様式は不明であり、今後の調査が必要である。
具体的データ
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図1 異なる性比の集団
メスの割合(左)とメスの交尾率(右)。メス群:n=40、オス群n=65(2016年)。エラーバーは標準誤差。 -
図2 オス群における一日の性比の変化
2×25mのコドラート内の数を毎時間観測した結果。夕方、オス群にメスが飛来するため、メスの性比が高まる。エラーバーは標準誤差。2016年は2地区の結果を示している。 -
図3 サバクトビバッタの繁殖行動
夕方、産卵場所に群がる雌雄のペア。 -
図4 繁殖行動の流れの模式図
日中、卵巣発達中のメスは、メスに性比が偏った集団で過ごし、交尾はしない。産卵直前の大きな卵を持ったメスがオスの集団に飛来すると、多数のオスが争って交尾を試みる。一匹のオスがメスの背中に乗ると他のオスは諦めてそれ以上の争いは生じない。その後、交尾し、産卵に適した砂地に雌雄のペアで移動して、夜間、集団産卵する。図はMaeno et al. (2021)より改変(転載・改変許諾済)
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金
- 研究期間
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2016~2025年度
- 研究担当者
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前野 浩太郎 ( 生産環境・畜産領域 )
Piou Cyril ( フランス国際農業開発センター )
Ould Ely Sidi ( モーリタニア国立サバクトビバッタ防除センター )
Ould Mohamed Sid'Ahmed ( モーリタニア国立サバクトビバッタ防除センター )
Jaavar Mohamed El Hacen ( モーリタニア国立サバクトビバッタ防除センター )
Ould Babah Ebbe Mohamed Abdallahi ( モーリタニア国立サバクトビバッタ防除センター )
Ghaout Saïd ( モロッコ国立バッタ防除センター )
- ほか
- 発表論文等
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Maeno et al. (2021) Proceedings of National Academy of Science USA, 118 (42): e2104673118https://doi.org/10.1073/pnas.12104673118
- 日本語PDF
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2021_B06_ja.pdf362.29 KB
- English PDF
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2021_B06_en.pdf240.65 KB
- ポスターPDF
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2021_B06_poster.pdf218.34 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。