ミャンマー南部ミエック近海における食用熱帯カキの産卵期
ミャンマー南部に位置するミエックの近海では、食用熱帯カキは周年成熟しているが、10~11月と4~5月に主な産卵期がある。食用熱帯カキの天然採苗をこれらの時期に行うことで、採苗の効率化が期待できる。
背景・ねらい
ミャンマーにおけるカキ養殖研究は1970年代に開始されたものの、商業的なカキ養殖技術はまだ確立されていない。カキ養殖に用いる種貝の確保は、天然採苗の場合、沿岸域における稚貝の天然発生量に依存する。これは現地の気候や沿岸環境、カキの性成熟と密接に関係するため、対象とする地域の環境と養殖対象種の産卵期間の関係を明らかにする必要がある。冬季と夏季の水温が大きく変化する温帯域では、水温が上昇する夏季に年1回産卵する種が多いが、1年中高水温である熱帯域では周年産卵することが多い。しかし産卵個体の割合には季節変化がある。主な産卵期は年1回、2回、3回などが報告されており、同じ種でも地域によって時期が異なることがある。産卵には塩分が関係するとの報告があり、年2回の雨季と乾季の移行期に主な産卵期がある例も複数知られている。本研究ではミャンマー南部に位置するミエック近海(図1)に生息する食用熱帯カキ(Crassostrea belcheri)(図2)の養殖産業化を目指し、本種の天然成貝を定期的に入手して性成熟サイクルを組織学的に検討することで、適切な天然採苗時期を特定する。
成果の内容・特徴
- 現地の気候は明瞭な乾季と雨季がある熱帯モンスーン気候で、雨季の降水量が著しく多く、2018年8月の月間降水量は1400 mm以上に達する。調査期間では2017年は9~10月、2018年は6~9月に月間降水量が400㎜を上回り、その時期が雨季と見られる(図3a)。
- 2017~2018年にほぼ毎月、ミャンマー南部に位置するミエック市の市場から入手した12~20個体の食用熱帯カキの生殖腺組織切片を光学顕微鏡で観察して成熟段階を調べた。多数の卵細胞または精子が生殖腺内に見られる成熟期~放出期に達する個体は周年観察されるが、その盛期は主に10~11月と4~5月である(図3b,c)。
- ミエック近海の食用熱帯カキは乾季から雨季、および雨季から乾季への移行期に主に産卵する。
成果の活用面・留意点
- ミエック近海に生息する食用熱帯カキの産卵盛期は乾季から雨季、雨季から乾季への移行期の年2回ある。同時期に海域に採苗器を設置することで天然採苗の効率化が期待できる。
- 生殖サイクルと現地の気象情報との関係から、気象情報に基づく熱帯カキの産卵期推定が可能であり、海域への採苗器の投入時期も推定可能である。
- 3. 雨季は淡水流入による低塩分化などで、雨季前に加入した稚貝の生残や成長が妨げられる。漁業者による食用熱帯カキの効率的な天然採苗が実施可能になるためには、年2回の産卵盛期後の生残率や成長速度についても研究を進める必要がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金
- 研究期間
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2017~2022年度
- 研究担当者
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豊川 雅哉 ( 水産領域 )
科研費研究者番号: 60371837圦本 達也 ( 水産領域 )
Khin-May-Chit-Maung ( Marine Science Department, Myeik University )
齊藤 肇 ( 水産領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Khin-May-Chit-Maung et al. (2023) JARQ in press
- 日本語PDF
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2022_B06_ja.pdf1.07 MB
- English PDF
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2022_B06_en.pdf590.54 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。